第2話 目覚め

――――三か月後。サンクチュアリ研究所にて。



「…………フゴッ?」


 一体のダイバー・ゴーレムが診察台の上で目を覚ました。


 ゴーレムがのっそりと上体を起こしてあたりを見回すと、手狭な部屋の中には様々な計器が取り付けられた謎の装置や心電図のような波形を刻んでいるモニタが所狭しと並んでいた。


 部屋の床も壁も錆の浮いた鉄板づくり。床の一部には四角い穴が空いており、波打つ海面が顔を覗かせている。


「フゴッ……」


 自身の両腕を見てみると左腕は生身だったが右腕はマジックハンドのような機械になっていた。


 もともとこうだったのかそれともあとから付けられたのか彼にはわからなかった。彼には過去の自分にまつわる一切の記憶がなかった。


 記憶の有無に関わらず、ゴーレムは今の自分の状態をみても少しも動じることはなかった。ただあるがままを受け入れた。


「起きたか、わたしのダイバー・ゴーレム」


 唯一の出入り口である暖簾をかきわけて入ってきたのは黒髪サイドポニーの少女だった。


 ノンフレームの眼鏡をかけたその少女は真っ赤なビキニの上に白衣を羽織るという奇抜な恰好だったが、知能の低いゴーレムには彼女の服装を見てもこれといった感情の変化はなかった。


「わたしの名は……いや名前なんてどうでもいい。博士とでも呼べ。はこんなだがこれでも機械工学のスペシャリストだ。……文明が残っていたころはな」

「フゴッ」


 名前を呼ぼうにもゴーレムの口にはカメの嘴のようなマスクが取り付けられており言葉を発することができない。


 着せられている青いダイビングスーツのような服も体に縫い付けられているようで脱ぐことはできそうにない。


 肩甲骨の辺りに取り付けられたバックパックも金具が背骨に固定されているようだ。


「……そもそもしゃべれないんだったな、お前は」


 博士と名乗った少女は呆れたようにため息をついて診察台の脇にある椅子に座ると、ゴーレムの左胸に手をあてた。


 彼女の首に下げられた銀色のペンダント揺れ、ちゃりっ、と音を立てる。


「ふむ、心臓は止まっているな」 

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