第147話 晩御飯
街をでて初日の野営。
馬達はまだ走れるとばかりにグエッと歯を見せてアピールしてくるが、日も傾いてきたので野営の準備をしなければ晩御飯が不味い保存食になってしまう。
今日の晩御飯は久々にみんなで作る料理だから気合いを入れて楽しく料理をつくる。
「今日もお花のにんじんを切ろうか?この前教えてもらったから鳥さんも切れるぞ!」
と、家の飾り切り大臣のアインが張り切っている。
その為、今日の晩御飯もにんじんが映えるメニューにする事にする。
鶏肉、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリー。
少し肌寒くなってきた季節柄、恋しくなる家庭の味だ。
元の世界のように足跡のルーは無いが、カレーの様に複雑なスパイスの調合の要らないあったかメニュー。
チキンクリームシチューだ。
ムツキは妻達と仲良く野菜を切っていく。
シャーリーが手際よくじゃがいもやブロッコリー、玉ねぎを切っていく横で、エレノアとアインがにんじんの飾り切りをしている。
「こうですか?アインさん」
「そうだ。手首をこうしてな」
今日はアインがエレノアに鳥の飾り切りをレクチャーしている。
「あ! くちばしが無くなってしまいました!」
「私も始めはそうだった。頑張ろう、エレノア」
シャーリーやアインの様に騎士として剣やナイフを使っていたわけでも無いエレノアは、ムツキと料理を始めるまで刃物など持った事もなかった。
その為、みんなでする料理は好きであるし、ザクザクと切る事はできるが、繊細な飾り切りは苦手である。
シャーリーやアインが切ったものとは違い、花の飾り切りも、エレノアの花は特徴的でよく分かる。
そんな微笑ましい光景を見ながら、ムツキは鶏肉を炒めていく。
鶏肉の下味には、伝家の
鶏肉を炒めている間に、シャーリーは切り終えた野菜をムツキが鶏肉を炒める鍋に放り込んでいく。
エレノアとアインも、飾り切りを終えて、鍋にブロッコリー以外の全ての野菜を放り込んだら、小麦粉やバター、ミルクなどを入れてシチューを作っていく。
シャーリーは、その間に別の鍋で最後に入れるブロッコリーを茹でてくれる。
エレノアとアインは、広げたテーブルに、ランチョンマットなどをならべて飾り付けをしてくれている。
野営の準備を終えた御者とメルリスも戻ってきた。
「ムツキ様、エレノア様、アイン様、シャーリー様。日も暮れてだいぶ寒くなってまいりました。お上着をお持ちしましたので羽織られて下さい」
メルリスが気を使って馬車から上着を持ってきてくれた様である。
エレノア達はお礼を言って着ているが、ムツキは鍋の前に居るので暑いくらいである。
「私は暑いくらいなのでメルリスが使ってください。貴方も寒いでしょう?」
「滅相もありません!椅子にかけておきますので後でお使いください!」
ムツキの物を使うのを恐れ多いと思っているのか、メルリスが断ろうとしたのを見て、エレノアが声をかけた。
「では、私の物をメルリスが使ってムツキ様のは私がはおりましょう」
「そんな!私がエレノア様のをお使いするなんて!」
「メルリス、私はムツキ様の上着を着てムツキ様を感じたいのです。でもその為には自分の上着は邪魔になってしまいます。協力して下さい」
メルリスが風邪をひかないように、上着を着せるためとはいえ、エレノアの言い方にムツキは苦笑いだ。
アインがずるいと言っているのは無視をしておこうと思う。
エレノアの言葉に、メルリスは渋々と言った様子でエレノアの上着を羽織った。
その後は、日が暮れた寒空の下、あったかクリームシチューでテーブルを囲むのであった。
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