第140話 火事

「なに?3人居なくなっただと?」


男は外に待機させていた手下と連絡が取れなくなった時言う連絡を受けて舌打ちをした。


「魔物にでもやられたか?」


外に待機させておくには、街道沿いではなく森の中などに隠れて潜んでもらわなければならない。


もともと盗賊上がりな為、森に潜むのは慣れているが、安全は保証されていないのは分かっている。


だが、少々の魔物が現れても蹴散らせるだけの実力はあるはずだ。


まさか、魔者? ……まさかな


男は自分の想像力の豊かさを鼻で笑った。


「まあ、居なくなった奴のことを考えても仕方ねえ。おいお前ら、明日例の店を荒らしに行け」


「俺達ですか?」


「そうだ。お前らは初めの方にイチャモンつけに行っただけだから覚えられてないだろうよ」


男は、目の前にいる手下の何人かに指示を出した。


計画の実行は絶対。


依頼人の願いを叶えて金さえ受け取ればこの街からトンズラすればいい。


その為にはいつまでも時間をかけるよりも多少強引でも依頼を達成するのだ。


後々ほころびが出て依頼人がボロを出して揉めようが、トンズラした後なら問題ない。


手下達には言っていないが、前金はある程度もらっているので、下手をうった手下は見捨ててもいい。


居場所のないゴロツキなんてそこら中に転がっているんだから補充すればいい。


「それじゃあ俺は準備として火でもつけて来るかな」


手下達に指示を出した男は、今日のうちにやっておかないといけない仕事を片付けに向かう。


男は昔から《忍び足》が得意で、コソコソと動けば見つかった事がない。


自分よりも隠れた隠密行動が得意なヤツはこの世にいないとさえ思っている程の特技だ。


コソコソと目的の店の裏に忍び込んだ男は、そこに止めてあった馬車に狙いをつけた。


この店がこの馬車で仕入れを行っているのは分かっている。


壊れれば仕入れはできないので、明日店を荒らして店の商品を使い物にならなくさせれば、店の経営は火の車だ。


勿論、馬車を燃やすだけでなく、近くにある倉庫を燃やすのも忘れない。


男は計画通りに火をつけると、この場所からすぐに立ち去った。




少し時間が経った後、街はちょっとした騒ぎになった。


火事だ。とある店の裏庭から火が上がり、その店の倉庫と馬車が燃えた。


店舗や周りの家に燃え移る前に消し止められたのだが、倉庫が消し炭になるまで全焼してしまっているのに、燃え移る事がなかったのは風が起こした奇跡だと噂が流れている。


消された後の、全焼して消し炭になった後を見て、男は笑った。


後は、明日手下に店を荒らさせた後は計画通り、依頼主がこの店に手を差し出せば上手くいくだろう。


無理に決めさせず、考える時間を与えた後、裏で娘を脅して依頼人の息子とくっつければ依頼は完了。


調べた情報だと、両親思いの女なので、店を助ける為に首を縦に振るだろう。


満足した男は、現場をニヤけながら立ち去るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る