第138話 クレーマーの男

「ちっ、バカにしやがって!」


その男は右手に金を握りしめてイライラした様子で叫びながら石を蹴飛ばした。


この男は先程ある店で買った商品に文句を言いにいき、それを大声で叫びながら無理を言う事でその店の中にいた客を追い出した。


なんでそんな事をしたかと言うと、この男は雇われてあの店の評判を落とし、経営難に陥れるように動いている。


依頼主はあの店と同規模のこの街にある店であった。


どうもその店は店舗拡大の為にあの店を吸収合併したいらしい。

そうすればライバルも減って店舗が増えるので万々歳であった。


ちょうどあの店には年頃の娘がおり、依頼主の息子もいい年齢なので結婚させれば丸くおさまる。と依頼主のは考えているようだ。


しかし、その結婚の申し入れは断られてしまった。


あの店の娘は店の従業員と恋仲で、結婚の約束もしているとか。


依頼人はそれをなんとかする為に色々と策略をねり、あの店に借金を抱えさせ、息子との結婚を条件に借金の肩代わりを申し出る予定なそうだ。


本来なら、あの店主は今店にいないはずであった。


仕入れに出た先で細工してあった馬車が壊れて立ち往生しているはずだったからだ。


借金を作らせる為に仕入れの邪魔をして、客を減らして経営難に陥れる作戦だが、今回はどちらも失敗してしまった。


しかも、変な男がいきなり現れてクレームにケチつけやがった。


残念だがあれ以上言ってしまえばこちらが罰せられるら事になってしまう。


……まさか、あの男はそれが狙いだったのか?


あの店が用意した用心棒なのか?


なんにせよ、対処法が店主に知られてしまった為、この作戦はもう使えない。


部下にゴロツキをやらせて営業妨害でもするしかないか?


なるだけ法に触れるような事はしたくないのだがな。


しかし、成功報酬さえもらえればこの街からおさらばするので、じっくり追い詰める作戦からさっさと終わらせて逃げる作戦に切り替えるか。


とりあえず、今日は失敗を雇い主に報告しにいかないといけない。


雇い主は失敗すると、ぐちぐちと小言を言うタイプだから気が進まないが、仕事だから仕方がない。


「何見てんだよ!」


イライラしながら道を歩いていると、通行人がチラチラと見てくるので、怒鳴ると必死に目を逸らした。


「チッ」


男は依頼人の店まで、いろいろな物に当たり散らしながら向かっていった。


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