第131話 王子
その日、ある小国の城は、門番からのある一報により、急に慌ただしくなった。
国王の命令で急に客を迎える用意を始めたのだ。
「皆、失礼な内容にな。平民の方だが、一切の手抜きを許さん!」
国王は、まさか自分の国にあのお方が来るなどとは想像していなかった為、失礼がない様に早急に使用人達に準備を徹底させた。
一度だけ遠目に見ただけであったがリアの時の存在感は脳裏に焼き付いている。
二匹のドラゴンを従える姿は、この世の覇者なのだと誰もが認めるものであった。
それに、あの時にあのお方に降る事を拒んだのか、エクリアを攻めたダスティブは、一瞬にして城が燃やし尽くされたと聞く。
今はエクリアに統合されてダスティブの時よりも豊かになっているそうだが、だからと言って自分の国がその様な運命を辿るのはごめん被る。
完璧な準備をするあまり彼の方達を待たせてはいけない。
国王は、迎えを早急に門に向かわせ、自らも城の外に迎えに出るのであった。
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「なんだ、今日はえらく騒がしいじゃねえか」
「あん、もう、殿下、すぐにお尻を触るのはやめて下さい」
殿下と呼ばれたのはこの国の第二王子であった。
メイドの尻を挨拶代わりに触ると、そのメイドが持っていたフルーツの盛り皿から一つ摘んで口に運んだ。
このメイドが嗜める程度にしか文句を言わないのはこの第二王子が王族だからでは無く、このメイドが第二王子のお手つきである為であった。
「これはお客様に出す物ですからつまんじゃダメですよ、殿下」
「あ、客だ?ここまで準備するなんて他国の王と商談でもあんのか?」
第二王子は興味なさげに呟いた。
国王は兄が継ぐので、自分は公爵の位でも貰って自堕落に過ごすつもりなので、他国との付き合いなど興味はなかった。
「なんか平民の方みたいですよ? あ、はーい今行きます! 殿下、ちょっと待ってて下さいね」
メイドは準備の為に言われて行ってしまった。
第二王子はフルーツの汁がついた手を舐め、部屋に戻ろうと廊下を歩き始めた。
メイドは待ってろと言ったが、抱かれたければ向こうから部屋に来るであろう。
部屋に帰る道すがら、執事に回り道する様に止められた。
「なんだよ、こっちのが近けえんだからいいだろ?」
「でしたらすぐにお客様が通られますのでそれまでお待ちください」
「んだよ、平民なんだろ? 待たせろ!」
「陛下の命令ですので」
執事は第二王子の言葉よりも国王の命令を優先させた。
当たり前ではあるが、第二王子は頭が固いやつだと思って「ケッ」と言葉を漏らした。
仕方なく回り道でもしようかと思った所で、来客が来たようで周りの空気がピリッとしたのを感じた。
「どれどれ」
せっかくなので、王族の自分を待たせた平民はどんな奴かと顔を見る為に通路から覗き込んだ。
「へえ、えらい別嬪連れてるじゃねえか」
先程のメイドなんかとは比べ物にならない程、いや、あれ程に美しい女性は見たこともない。
「平民には勿体ねえよ」
第二王子は、通路の影で人知れず舌舐めずりするのであった。
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