第132話 バカ王子

ムツキ達は、城に招かれ、貴賓室に通された後、テーブルに並べられたフルーツを試食しながらこの国の王様と話をしていた。


「こちらは今年1番力を入れたグリンギョクの実です。甘さが素晴らしいのに口に残らずにさっぱりとしていてとても美味しいですよ」


と言った風に、この国の王様自らフルーツの説明をしてくれ、食べ頃のフルーツでもてなされている。


「ムツキ様、このアーチルはとても美味しいです!」


エレノアは、ここに来る前に見かけた果樹園で栽培されていたアーチルの実を美味しそうにほうばっている。


道中で熟してないものはエグみが強いと聞いていたので、はじめは恐る恐るであったが、一口食べた後は幸せそうな顔をしている。


「ほらアイン、口元」


「ん、すまない」


シャーリーは一心不乱に食べていたアインの口元をハンカチで拭ってあげている。


「ヒルクス、このフルーツ達を買って帰ることはできますか?」


ヒルクスとは国王の名前である。

この部屋に通されてすぐに自己紹介をされて呼び捨てにしてくれと言われたのでそのように呼んでいる。


「もちろんですとも。本当は差し上げたい所ですが、これは国民が大切に育てた物ですので買っていただけるのはとても助かります」


ヒルクスは国民を思ういい国王なのだろう。


「では、帰りまでに用意をお願いします」


ムツキが、ヒルクスにお願いした所で勢いよく部屋のドアが開いた。


大きな音がしたので、部屋にいた者は全員扉の方を見た。


「親父、この部屋は王族をもてなす為の特別な部屋だろ? 平民を入れるのは問題じゃないか?」


部屋に入ってきたのは高そうな服を着た細身の男性であった。

ヒルクスを親父と言ったことからこの国の王子なのだろう。


「この方は大事なお客様だ。ミルクス、失礼だ、下がりなさい」


ミルクスと呼ばれた王子はやれやれと言った様子で退出をせずに話し出した。


「でもお前、平民だろ?」


「そうですね、平民です」


ムツキは質問された通りに答えた。


「なら命令だ。俺はその女たちが気に入った!俺に献上しろ、これは王族の命令だ」


いやらしく笑ったミルクスの口から出た言葉に、ムツキは抑揚のない声で返事をした。


「嫌ですね、3人とも私の命よりも大切な妻達ですから」


「お前の意思など聞いていない。不敬罪で首を刎ねるぞ?」


ミルクスの言葉に、アインがフルーツを食べていたフォークをくるりと回してナイルのように持ち替えた手をムツキが掴んだ。


「アイン、せっかくなので私に格好くらい付けさせてくださいよ」


ムツキがアインに優しく微笑むとアインの目の前からムツキがブレた。


「がぁ!」


ムツキはいつの間にか移動してミルクスの首を持って片手で持ち上げていた。


ミルクスは苦しいのか、もがきながらムツキの手をどかそうと必死である。


「ヒルクス、これがこの国の王族か?」


ムツキの言葉にヒルクスは頭を下げた。


「そ奴は出来の悪い第二王子で王位継承権はありません。この謝罪はそやつの王族籍追放と処刑を持って許して頂きたく思います」


ムツキはその言葉を聞いてミルクスの首から手を離した。


ミルクスはそのまま尻もちをつくと、空気を求めて咳き込んだ。


「牢にぶち込んでおけ!」


ヒルクスの言葉に兵士がやってきてミルクスを引きずっていった。


「申し訳ありません、なんとお詫びをすればいいか……」


冷や汗をダラダラと流しながらヒルクスはムツキ達に謝る。


「処分は任せます。この話をこれ以上続けるのも不愉快ですから、もう離さないでください。お土産のフルーツの準備ができ次第失礼させてもらいます」


「汚名返上の為、私の生涯をかけて尽くさせて頂きます」


「そう言うのはいいから」


後味の悪い幕引きであったが、これは平民でいる事を選んだムツキにも原因がある。

ムツキはこれから、しっかりと妻達を守ろうと再度思うのであった。



そして、これから毎年お詫びとしてエクリア経由でムツキの家にフルーツの詰め合わせが届くようになるのだが、それはまた別の話。

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