第129話 快適な野宿
国境を越えて新しい国に入ってからは、少しゆっくりとしたペースで馬車は進んだ。
この国は通り過ぎるだけの小国だが、シュナイゼルに聞いた情報によると、首都のあたりは果樹園が有名だそうで、エクリアでも輸入をしているそうだ。
せっかくなので、採れたてのフルーツを食べに向かい事になっている。
しかし、もう夜なので、今日はこの後野宿をする事になる。
野宿をせずに、近くの村に行って泊まるという選択肢もあるが、この旅に限っては下手な村の宿よりも、野宿の方が快適である。
寝床としては、馬車の席にあるテーブルを取り外し、椅子の段差を埋めるようにして別のパーツを置くと、座席がベッドに変わった。
要は、キャンピングカーの原理である。
このベッドはもちろんムツキのお手製で、寝心地は保証つきである。
川の字に3人が足を伸ばして余裕で寝られるのでこのベッドはエレノア達に使ってもらう。
後はテントを立ててムツキと御者、それからメルリスのテントで3つ建てる。
寝袋と、ウレタンマットレスを敷いてあるので、普通の野宿よりも寝心地はいい。
寝床の説明はこれくらいにして、寝る前にはご飯が必要である。
初めてムツキがリフドン達と移動した時の旅飯もムツキの味塩コショウでワンランク上の食事であったが、今回はムツキの収納スキルもある為、食材も保存食で無い物を持って来ている。
焚き火に網をセットして、焼肉パーティーである。
もちろん日本式と呼ばれる物で、にんにくや生姜、ごま、砂糖。それに錬金術を使って作ったみりんや醤油などを使って焼肉のタレも用意してある。
メルリスや御者も一緒に参加しての焼肉パーティーである。
御者とメルリスは初めは遠慮していたが、ムツキ達は平民だと納得してもらって全員参加である。
トングで網に肉を並べて、焼き上がったら思い思いに食べるのだ。
「あ、シャーリー、それは私の!」
「早い者勝ちですよ、アイン」
「あ、それ……」
「あ、すみませんアイン様」
「いいのよメルリス、遠慮しないで」
「悔しいが、その通りだぞ、メルリス」
アインは次々と肉を取られて悔しそうではあるが、怒ってはいない。
次こそはと焼ける肉に狙いを定めている。
「ほら、アイン。こっち」
タイミングを逃しているアインに、ムツキが助け舟を出した。
「え?」
アインはムツキの方を見てキョトンとした顔をした。
ムツキが端で肉を持った状態でアインの方を向いていたのだ。
「はい、アーン」
「あ、アーン」
口を開けたアインの口に、ムツキが肉を食べさせてあげる。
「あ、熱ひ」
「大丈夫?」
ムツキの言葉にアインは笑顔で頷いた。
「良かった。美味しい?」
口の中に肉が入っているアインは言葉を話せず、何度も連続でコクコクと頷いた。
「ムツキ様、私も!」
「私もお願いできますか? アーン」
アインのアーンを羨ましく思ったエレノアとシャーリーも、ムツキにおねだりする。
楽しい焼肉パーティーは、夜遅くまで続いたのであった。
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