第123話 式

黒と金の衣に身を包み、玉座の1番高い位置にムツキは座っていた。


この世界の結婚式は地球の結婚式と随分と違う。


神父が神の代わりに愛の誓いを聞いてくれるなどと言うイベントも、新婦の父親が新婦を連れて入場してくる事もない。


勿論、みんなの前で誓いのキスをすると言う事もないのだ。


結婚式と言うのは、この世界では発表会である。


ムツキの場合は1番位が高いので玉座に座っているが、普通の貴族だと、段差の無い場所で椅子に座っている。


ムツキの隣にはエレノア、シャーリー、アインの順番に並んで座っている。


人生で1番着飾った主役達の元に、貴族達参列者が祝いの言葉を順番に言いに来るのだ。


その人数が多い程、皆に祝福された証であり、結婚生活が幸せになるとされている。


因みに、ムツキがあれだけ頑張った結婚指輪だが、この世界に結婚指輪と言う文化はない為、指輪の交換の様な儀式的イベントもない。


それでも、エレノア達に、ムツキの世界の文化で、指輪に込められた意味と共にエレノア達に説明しながら事前にムツキがみんなの薬指に嵌めてある。


純白のドレスに身を包み、幸せそうに座るエレノア達の指では、ドレスに負けない存在感を放っている。


結婚式の初めの挨拶は、新婦の父からの祝福の挨拶で始める。


複数の妻がいる場合は第一婦人の父親からと順番が決まっている。


エリザベートを連れて、シュナイゼルが挨拶にやって来た。


「ついにエレノアの結婚か。ムツキ、心配はしていないがエレノアの事を幸せにしてやってくれ」


シュナイゼルが挨拶して、家臣の礼をとる。


エクリア王であるシュナイゼルが礼をする事に違和感はあるが、ムツキの方が位が高いのでこれで正解なのである。


「みんな綺麗だわ。やっぱり、張り切った甲斐があったわ!」


新婦のドレス姿を見て、エリザベートはニコニコである。


エレノア達は返事を返して話したいだろうが、結婚式の間は新婦は話してはいけない。


それは夫を立て、挨拶しに来る他の男性に口を開かない事で操を立てると言う二つの意味がある。


勿論、結婚式が終わった後は、披露宴ではないが、身内と話す二次会がある。


その二次会までには、これからエクリアとドラゴニアの貴族全員から祝福の挨拶を受けなければならない。


シュナイゼルやアグニール、マルグリッド伯爵は自分の言葉で祝いの言葉をくれるが、その後の貴族達は定型分での祝福の挨拶である。


しかしなにぶん数が多いので、流れ作業とは言え大変である。


ムツキとエレノア達は、最後まで笑顔を崩さない様に、皆んなからの祝いの言葉を受け取るのであった。



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