第106話 サボれ

シュナイゼル達が泊まりに来た翌日、ムツキはこれからお世話になる使用人達にこれからの業務について説明していた。


この世界の使用人の常識的な働き方とは違っている。


どちらかと言えば日本の家政婦の様なものに近い働き方で、家の掃除などは任せるが、料理などは今の所夫婦のコミュニケーションの場なので、雇っている料理人は使用人寮の食堂の調理人として働いてもらう事になる。


なので、ムツキの下で働く名誉などで手を挙げた人は外れてもらっている。


ムツキが業務の内容について話すと、使用人達の間でざわめきが起こった。


使用人として働く人にとって衝撃だったのは休みの多さである。


どちらかと言うと使用人は奉公に近い為、休みをもらう事はあまりない。


多少自由があるのは貴族の家の子供が働きにきた場合だろう。


しかしムツキの場合は3日に1度は休みを設けている。


ムツキの言い方でホワイトな働き方だ。


それにムツキの元で働くので給料もいい。


休みが増えても色々とできる事は多くなるだろう。


説明が終わると、母屋を案内していく。


キッチンから風呂、トイレなど、この世界にない魔道具を使用した設備が多い為、手入れの説明もしなければならない。


それでも、これまでエクリア城でしていた事よりも仕事量は少なくなるだろう。


特に今までの汲み取り式の様なトイレよりは格段に楽だしキレイである。



説明し終えると、メイド長や執事長にあたる人物が業務を割り振り、使用していない部屋の清掃から始めるそうだ。


最後に一言お願いしますと言われた為に、ムツキは一つ言っておく事にした。


「皆さん、業務を覚えたらなるだけサボれる様になって下さい」


ムツキの言葉に聞いていた使用人達はざわついた。


これまではサボらない事を徹底されていたし、サボるのは貴族出身の者が他に仕事を押し付けてサボっているくらいだったからだ。


「なにも仕事をほったらかしにしろと言っているわけではありません」


ムツキはサボるについての説明をする。



与えられた仕事、ノルマを早く終わらせて時間を余らせて休憩を取る事をムツキの過ごして来た世間一般ではサボると表現する。


同じ仕事量なのに、早めに仕事を終わらせて休憩してる人にはサボってないでまだできていない人を手伝えと言われる。


それで給料が上がるかと言うとそうではないのだ。


では逆に、仕事の効率が悪いのか、それとも他に問題があるのか、時間内に仕事が終わらず残業をしている人は頑張っていると言われて残業手当がつく場合まである。


仕事の量ではなく、働いている時間で判断される事が多々ある。


学生の時の授業でもそうだ。


この問題を解いたら終わりと言っておきながら、早めに解けた生徒は同級生に教えてあげなさいと言う。


ムツキは、効率よく仕事を終わらせれば空いた時間は好きに使っていいと言っているのだ。


その代わり、早く終わらせたいからと言って手抜きをしない様に注意するのも忘れない。


「それでは今日から、よろしくお願いしますね」


そう言ってムツキは挨拶を締めくくると、退場していった。


ムツキが居なくなった使用人寮の面々は高待遇に仲のいい者と色々と話をする。


ここに来ているのはエクリアやドラゴニアで優秀な使用人達である。


自分達が必死に働いて来たのは間違っていなかったと喜び、そして気合を入れる。


サボれるようになれと言うのはムツキ様の期待のこもった言葉だと皆が認識する。


ムツキの元で働く使用人達は、期待に応える為に、精一杯働く事になるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る