第97話 新しいキッチン
「凄いですね」
キッチンの使い方の説明をすると、エレノアはそう言葉を漏らした。
魔力の調節無しに必要な機能がハンドルを捻るだけ、ボタンを押すだけで使えるのは魔力コントロールの苦手なエレノアにはとても凄い機能に思えた。
ムツキと3人がエプロンを準備して、手を洗うと、アインがおどおどと話し始めた。
「大丈夫だろうか?私は騎士であったしエルフは基本焼くだけなのだ」
物語と違って、この世界ではエルフも肉や魚を食べる。
しかし森に暮らす彼らは、川魚や森で得た動物をただ焼くだけと言う調理しかしない。
塩を振る事さえしないのだ。
城に来て初めての晩餐で、食事の美味しさに目を輝かせ、リスの様に口を膨らませたアインの姿を思い出して、ムツキは微笑ましい気持ちになった。
「大丈夫です、自分でアレンジを加えなければ美味しいものができます」
「そうですわ。私も少しずつ上達してきたんですよ」
「それにみんなで作れば更に美味しく感じます」
ムツキ、エレノア、シャーリーと、皆がアインを応援して、料理を開始した。
「しかし、この氷の無い氷室は凄いですね」
シャーリーが材料を取り出しながらムツキ特製冷蔵庫の事を褒めた。
この世界での食糧保存は、ドラゴニア初代聖王が広めた氷室。つまり氷を上の箱に入れるタイプの冷蔵庫である。
それに対してムツキの作った現代風冷蔵庫は、氷が入っていない分スペースが広くなることは勿論、溶けた氷の湿気で食料や氷室自体がカビる事もない。
しかも、温度は氷の大きさに左右されずに一定である。
システムキッチンにしても冷蔵庫にしても、この家にあるもの全ては現代日本人であるムツキの知識で作られている。
ドラゴニア初代聖王、つまり前の勇者の明治初期の知識よりも随分と進化している。
エレノア、シャーリー、アインの3人はまだリビングダイニングキッチンしか見ていない。
アインの様子を代わる代わる見ながら、皆で楽しく料理をしていく。
せっかく和風の家なので、今日のメニューはムツキが教える現代風和食である。
使う調味料はムツキが錬金術で作った
まだまだこの世界では調味料が発展しておらず、塩がメインの調味料である。
米はあるのに調味料がない。
そんな現状を打破する為にムツキは錬金術で試行錯誤をしたのだ。
ムツキの作り方をしっかりと守って、誰も不穏な行動をとる事なく、食事は完成した。
今日の献立はニンニクとウスターソースやケチャップを使ったのパンチが効いたソースに豚肉を絡めたトンテキ。
野菜たっぷり具沢山の味噌汁。
ふっくら炊き上がった白米。
のトンテキ定食である。
塩と胡椒以外の複雑な味に、衝撃を受ける3人の妻の姿を微笑ましく見守りながら、ムツキもトンテキを白米にワンバウンドさせて口に放り込むのであった。
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