無能と言われた召喚者、詐欺スキルにて有能以上へと至る

第74話 戦争1

陽の光を遮って、フィールダー男爵領に現れたのは赤いドラゴンであった。

ドラゴンが着陸すると、その背中から3人の人間が降りてきた。

ムツキとエレノアとシャーリーであった。

ミール男爵が礼の態度を表そうとすると、エレノアがそれを止めた。

「その様な事をしている場合ではありません。今はこの戦争を終わらさなければ」

「はい」

エレノアの言葉にミールは頷いた。

「ふふふ、この状況を見ると、とても魅力的な女性になりましたねトリエ様」

エレノアは自分の身を挺して領民を矢から守ろうとしたトリエを見て笑顔でそう言った。

「なによ、ここまで落ちた私を笑いにきたの？」

トリエは3人を見てそう憎まれ口を吐いた。

「トリエ様、私はドラゴニアに居た頃よりも今のトリエ様の方が素敵だと思います」

シャーリーはトリエの言葉にそう反論した。

「その話は後でゆっくりしましょう。今は戦争を終わらせないといけませんから」

ムツキはとりあえず話をピシャリと終わらせた。

「男爵さん、領民の避難はどんな感じですか？　ここより向こうにはもう居ないでしょうか？」

「はい。ここが最後尾です」

ミール男爵はムツキの質問にそう返した。

いつの間にか最後尾になっていた様で、他の領民は避難が完了している様だ。

「そうですか。なら、エレノア達と一緒に後ろにいて下さい」

ムツキはボロネの隣に並んでボロネの足をポンポンと叩いた。

「ボロネはみんなを守ってください。あなたが戦うと綺麗な田畑が焼け野原になっちゃいますから」

「わかった」

ボロネは、ムツキの言葉に体を少し引いた。

ムツキは、前に歩いて行くと、下級風魔法を放った。

下級風魔法の上に、上級や暴風魔法等もあるが、田畑をなるだけ壊さない様に下級魔法を放ったのだ。

下級魔法は、扇風機ほどの風が出る程度だが、ムツキの魔力の暴力でとてつもない突風に変わる。

ダスティブの兵士達はその突風で飛ばされるが、ムツキの攻撃に怯まずに突き進んで来る。

ムツキが何度か吹き飛ばしても怯まないのは不思議を超えて不気味さを感じた。

何回か吹き飛ばした所で、ムツキは見知った顔を見つけた。

ムツキはその人物達の所に一足飛びに向かった。

突然目の前に現れたムツキに、目の前の人物は驚いた様に話しかけてきた。

「うお！　お前、あの詐欺師じゃないか。急に現れやがって」

「いや、詐欺師ではないのですが……」

「うるせえ！　こっちは情報を掴んでるんだ。ドラゴンを使って他の国に詐欺を働いてるらしいな」

ムツキの言葉は聞く耳を持たず、ユウジは自分の意見を押し付けてきた。

「あなた方はやっている事が分かっていますか？　これは戦争ですよ？」

「うるせえ！　俺達は攻撃されても痛くも痒くも無いんだよ！　ゲームと同じ、攻略なんだ！」

「そうさ、これが終わればご褒美も待っている事だしね」

ユウジとカズマはノリノリで戦争を再開しようとする。

しかし、後ろの2人は意見が違う様だ。

「ねえ、やっぱりやめよう、私はもう嫌だ！」

「そうだよ、やっぱり戦争なんて怖いよ！」

ミサキとアキホはやめたいと願った。

特に、先ほどトリエに向けて矢を放ったアキホの精神はボロボロだった。ギリギリ壊れていないのは、矢が当たらなかったおかげであろう。

「うるせえ！この戦争に勝つんだよ！」

「そうだ、これは命令だ。お前達にはこれがある限り逃げる事はできないよ」

カズマがそう言って自分の首にも付いているチョーカーをトントンと叩いた。

「え、カズマ？」

アキホの口から震えた声が漏れた。

「知ってるよ。奴隷の魔道具だろ？　俺達にもお前達への命令権を与えられてるからな」

「まあ俺達はフェイクなんだけどな。お前達にバレない様にね」

ユウジとカズマはギャハハと笑う。

「戦争が終わったら次は子孫を残さないとな、これも勇者の使命だ。俺は王女、カズマは宰相の娘を貰う事が決まってんの！」

ユウジとカズマの2人はこの世界に来てすぐに女を与えられて籠絡されていた。

与えられた屋敷が別だったのもその所為である。

「そんな、うそ……」

「ミサキだけでも良いぞ。お前が居れば不死の軍団は作れる」

カズマが抑揚のない声で言った。

「あのう、ちょっといいですか？」

「あ、なんだよ？　命乞いでもするか、詐欺師！」

「失礼しますね」

ムツキが、ユウジとカズマを無視してミサキとアキホにスキルを使った。

スキル:《解呪》

奴隷の魔道具は一種の呪いである。

過去に存在した呪術師が作ったオーパーツで、今は基本どの国も禁止している。

ムツキは、エクリアで捕まえた奴隷商に囚われていた人達を解放する為に解除した事があった。

なので今回こんなに簡単に解除できたのだ。

「「「「え？」」」」

「それでは、移動するので舌を噛まない様にしてくださいね」

ムツキは、魔道具を解除した後、ミサキとアキホのを抱かえてエレノア達の所まで戻るのだった。