第75話 戦争2

ムツキが戻ってきたのを見て、エレノアとシャーリーは揃って首を傾げた。


「どうなさいましたか?」


ムツキならば、戻って来るのは戦争が終わった時だと思っていたので、エレノアはそう質問した。


ダスティブ王家の軍行は止まったものの、見た様子で壊滅も撤退もしていない為、当然の欺瞞であった。


ここに来る時、ムツキは1人で来ようとしていたのだが、ボロネが「奥方はいいのか?」と聞いてきたのだ。


その理由は、ムツキであれば、戦争はすぐ終わるだろうから、終わった後に何処かに出かけて帰ってかればいいだろうとドライブに誘うかの様なセリフであった。


まあ、ボロネとしては、この前の移動でエレノアとシャーリーを背中に乗せたペトレから「奥方を任された私は信頼されている」とマウントを取られたので自分も背中に乗せたかったと言う理由があったのだが……


それはさておき、ボロネも自分勝手な竜を含んでいようとも、主の奥様を危険に晒す提案などする訳はないのだ。


なので、エレノアとシャーリーが付いてきても怪我もしない様な戦争。だと思っていた。


「ああ、ちょっとこの人達を避難させにね」


ムツキは、米俵を両脇に抱える様に2人の少女をクイッと持ち上げて皆に見せた。


「ムツキ様、女性はその様に抱える物ではありません」


2人の時とは違い、落ち着いた様子のシャーリーにそう言われて、ムツキは苦笑いでミサキとアキホを地面に降ろした。


「それで、そのお二人は?」


「ああ、同郷の人でね」


「それで助けて来られたのですね」


エレノアが納得と言った言葉を発したが、ムツキはゆっくりと首を振った。


「違うのですか?」


「ああ。この子達はね、やりたくもない事を奴隷の魔道具で無理矢理させられていたんだよ。 そう、日本での私の様に、労働基準法なんてあったもんじゃない何が働きがいのある職場だ、やる気のある人材を求めるだ、ただ都合のいい様に働くコマが欲しいだけじゃないか職場に出勤しなくていい自分のペースでできる仕事だと偽り蓋を開けてみればノルマノルマノルマ。出社していない事、自由にできりる事を理由にキャパオーバーの仕事を押し付けてノルマが終わらなければ減給、そりゃ労働時間は増えるでしょうよキャパオーバーだもの、他社より見た目の給料が高くとも時間で割れば時給は雀の涙じゃないか、最低賃金なんて上がっても時給計算じゃなけりゃそんなの関係ないんだよ、精神的に追い詰めて辞めると相談すれば何かにつけて他社のデメリットを上げて有耶無耶にする! ブラック企業反対! 私はブラックな状態が許せなかったのです!」


「そ、そうなのですね……」


エレノアは、ムツキの何か押してはいけないスイッチを押してしまったのだと口角がひくつくのを必死に堪えた。


そばで見ていたシャーリーも気をつけようと心に決めたのであった。



「そ、それでムツキ様、何かダスティブ兵の様子がおかしかったようですけと?」


話題を変える為に、エレノアはムツキにそう質問した。


「え、ああ、そうなんですよ。なんか吹き飛ばして骨が折れたりとか怪我もある筈なのに平気な顔で立ち上がって来るんですよね」


「あ、あの……」


ムツキの疑問の声に、ミサキが声を上げた。


「私のスキルで、痛覚を無効化して回復術で瞬時に回復しているんです。だから、慣れれば死ぬまで立ち上がる無敵の軍団が出来上がるんです」


「な、なんですって! またブラックな所が出て来たじゃありませんか、治るからと言って怪我をしても無限に戦わせるなんて……」


また、ムツキの変なスイッチが入ったようでる。

ムツキは言葉を区切ると、怒りのせいかプルプルと握った手を振るわせた。


「ブラックな働き方をさせて高みの見物なんていい度胸じゃないですか! そのブラック国家企業私が潰してあげましょう!」


まず、ムツキはミサキに麻酔と回復術を解除させた。


そして代わりに自分の回復術を使った。


ムツキの回復術はミサキのSSと違ってAである。


なので、瞬時に回復することはない。死なない程度である。そうして、先程と同じ様に下級風魔法で吹き飛ばす。


そうすれば、今度は地面への落下で骨が折れ、痛覚もあり、死屍累々のダスティブ兵の出来上がりである。


数回吹き飛ばせば、立ち上がれずに痛さで助けを求める仲間を見て、無敵では無くなった自分達の状況を理解したダスティブ兵達は敗走を開始する。


これまで痛さの耐性が無いからこそ、恐怖は膨れ上がり戦う気など無くなるのだ。


特に、前線に送られる若い兵士には効果的面であった。


ダスティブ兵の敗走を見ながら、ムツキはボロネに乗ってダスティブの王都まで移動する。


懐かしい、ここでリフドンに出会わなければ自分の今は無かっただろう。


感慨深いが、今はそんな事を考えている場合では無い。


「ムツキ様、ここで手心を加えると、またつけ上がる国が出て来るぞ。ムツキ様の庇護下に手を出せばどうなるかを知らしめなければいけない」


「そうですよね。私がいない時に手を出されれば、今回みたいに不死の軍団がやって来れば大切な人を失うかもしれない」


ムツキは、難しい顔でそう返事をした。


「まさか、自分がトロッコ問題の当事者になるとは思いませんでした」


トロッコ問題とは少し違うが、自分の大切な人達を守る為に、少数の命を奪う。本質は同じだ。


先程風魔法を使ったのはエクリアの田畑を守る為。


このダスティブ王国の王都なら気を使う必要はない。


ムツキは、以前にレベルを上げる為に、魔物を爆撃したのと同じ様に、ダスティブ王国の王城に向かって爆炎魔法を落とした。


その日、ダスティブ王国の王城は火柱が上がり、消滅した。


そして、戦争は終了したのであった。

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