第64話 一方その頃2

ダスティブ王国国王のレヴィス・ダスティブは目の前で起こっている事に理解が追いつかなかった。


「おい、あれは一体どう言う事だ」


「レヴィス王、分かりません。しかし、あれは…」


レヴィスは隣にいる宰相に目の前の説明を求めたが、宰相も理解が追いついていない様であった。


目の前でドラゴンを2体従わせ、ドラゴニア聖国とエクリア帝国を傘下におさめた個人として紹介されたのは自らが召喚し、そして追い出した異世界人であった。


ドラゴンの威圧感はレヴィスが思っていた以上で、レヴィスは自分が自慢しようとしていた異世界人の勇者達が、このドラゴンに勝てる想像ができなかった。


そうなると、今ここで勇者の発表をするのはインパクトが少なく、場合によってら笑い物になる可能性を考えてしまい、勇者召喚の発表を見送ったのであった。


そして帰りの馬車の中では、レヴィスと宰相は信じられない物を見たと言った様子で意気消沈気味に話をしていたのであった。



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ダスティブ城に帰って来たダスティブ王と宰相のモノコフは、勇者達を集めた。


謁見の間の玉座にダスティブ王が座り、モノコフが勇者達に話しだした。


勇者達は、国王とモノコフから他国に向けて勇者召喚を発表して来ると言われていた為、ついに自分達の出番かと意気込んでいる少年を筆頭に、少女達も最近は実力をつけて来て、近衛騎士達と互角の戦いをする様になって来ていた。


なので、ダスティブ王国としては立派な戦力であり、これからの活躍に期待していた。


なのに……


「この度、人の領域の頂点とされて来たドラゴニア聖国から発表があり私とレヴィス王はエクリア帝国へ行ってきた。 エクリアは我が国の隣にあり、1番初めに落とさなければいけない国だったから敵場視察もかねてだ。 そこでお前達の事を発表し、近々宣戦布告をしてエクリアを落とすつもりであった」


モノコフの話を聞いている召喚勇者の反応は二つに分かれる。

いよいよ戦いと言う事で、ゲームの様に考え、次のステージを楽しみにしている少年組と、宣戦布告という言葉で、近衛騎士達との訓練はスポーツの様で楽しいが、戦争に不安を感じて顔を曇らせた少女組であった。


モノコフの話はまだ続いていた。


「しかし、ドラゴニア聖国の発表はエクリアと同盟を結び、その二国が個人の傘下に入ると言う異例の発表をした。 その人間はドラゴンを2体も従えていた。 その人間はお前達と共に召喚した男だ! お前達が追い出したのだろう、どうなっておる!」


まず、最終的に追い出しにかかったのは宰相のモノコフなのだが、モノコフはそれを棚に上げて責任転嫁していた。


モノコフの剣幕と、玉座から無言で見下ろす国王に威圧感を感じて勇者達はビクリと震えた。


「そ、それは何かの間違いでは無いですか?」



勇者の1人で1番強くなっているユウジがモノコフにそう質問した。


「間違いなどではない。私とレヴィス王でしっかりと見てきた、黒髪の男など珍しいからすぐに分かる。あの男だ」


「いえ、そうではありません。あの男を追い出した時の事を思い出してください。アイツのステータス、アイツは詐欺師です!」


ユウジが自信満々にそう話した。


それを聞いて、ミサキが否定しようと口を挟もうとするが、モノコフが感心した様にユウジに質問した。


「ほう。そうするとドラゴニア聖国やエクリア帝国も騙されていると?」


「そうに違いありません! もしかしたら、ドラゴンも皆が想像を膨らませているだけで大した事ないのかもしれません。聞いた話によれば勇者時代からドラゴンと戦った記録はないそうじゃないですか!」


「なるほど、しかしあの威圧感は…」


「それが詐欺の手ではないでしょうか? しかし俺達は本物です!この短期間でこの国の近衛騎士達と同じくらい強くなりました。 レベルはまだまだ上がりますし、俺達に任せておいてください!」


モノコフは満足そうに頷くと国王の方をチラリと見た。


「うむ、よく言った! 詐欺を見抜き、世界を救う勇者達よ、その力を持って我が国を人の頂点へ導くのだ!」


国王の宣言に嬉しそうに「は!」などと返事を返す少年2人を、少女は唖然とした顔で見ていたのだった。








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