第65話 少女達の直談判

謁見が終わった後、勇者達は自分達に与えられた建物に移動した。


そこで勇者の1人、ミサキは話を始めた。


「ねえ、さっきの話はどうかと思うの」


「あ、なんの事だよ?」


ミサキの話にユウジが質問をした。


「さっきの、あの人が詐欺師だって話。確証も無いのにあれは無いと思うわ」


「なんでだよ? 詐欺だろ。俺達より弱かったのにドラゴンを従えてふんぞり返ってるとか詐欺に決まってんじゃん。ドラゴンとかは勇者に倒されるモンスターなんだから俺らがもうちょっとレベル上がれば大丈夫だって」


ミサキは、聞く耳を持たないユウジにため息を吐いた。


「なあ、カズマ、騎士団とこ行って訓練しようぜ!これから戦いが始まるから強くならないとな!」


カズマはユウジに誘われて訓練をしに外へ出て行ってしまった。


残ったのは少女2人、ミサキとアキホだった。


「ねぇ、アキホはどう思う?」


ミサキは残ったアキホに質問した。


「うん。私も、詐欺だって決めつけるのはやり過ぎかなって思う。それに、ユウジ達は気にしてないみたいだけどこれから始まるのって戦争だよね? 今までみたいに魔物を倒すんじゃ無くて、人と殺し合わないといけなくて、しかも私達その最前線に……」


アキホは話すだけで恐怖で体が震えて、涙が目に浮かんでいた。


「そうだよね。もし本当に詐欺だったとしても戦争をしなくちゃいけないんだよね」



2人は、話し合った後、平和的な解決法は無いのかレヴィス王に直談判に行く事にした。


勇者の特権として、アポを取ればすぐに時間を取ってもらえた。


謁見の間では無く、執務室に通された2人はレヴィス王と宰相に自分達の思いを話した。


「あの、先程の話ですが、やっぱりあの人を詐欺だと言い切るのは早すぎだと思います」


「ほう、それではあの男は実力でドラゴンを従えて国を傘下におさめたと?」


「その可能性も考慮するべきだと思います」


レヴィス王は顎に手を持っていき、考える素振りを見せた。


「ふむ。しかし、それを考慮したとしても、あの男がお主らよりも弱かったのは事実。ならば、そなたらももう少しレベルが上がればドラゴンを従える程に強くなると言う事だろう。 そうなれば結局同じ事。うむ分かった。そなたらの意見を取り入れて準備に時間をかけるとしよう」



レヴィス王はムツキが特別だと言う考えには辿り着かなかった。


レヴィス王はよく言ってくれたとばかりに頷いているが、ミサキ達の言いたい事はしっかり伝わっていなかった。

戦争を起こす事を考え直して欲しかったのだから。


なので、ミサキはストレートに言う事にした。


「あの、私達は戦争に参加したくありません。人と戦うのは嫌なのです。殺すのも、殺されるのも、嫌なんです」


ミサキの言葉を聞いて、レヴィス王も宰相も驚いた顔をした。


戦争になれば、王の意思のまま戦うのは当たり前だと思っていた。

しかし、そんな時の対策も済ませてあった。



「それは許さん! もし、我の命令を無視するならばお前達は戦争を待たずに死ぬ事になる。 その為の首輪がお前達にはついているんだからな」


レヴィス王はそう言って首元を人差し指でトントンと叩いた。


ミサキ達は、ダスティブ王国の用意した装備で戦ってきた。


その中の首につけるチョーカーは、ステータスアップのアイテムでは無く、違法奴隷に使う為の魔道具であった。


「我の意思に従う内はそこそこは自由を許してやるが、背くのであれば死ぬか、意思を持たぬ傀儡になるだろうな」


レヴィス王の言葉に、ミサキとアキホは絶望で顔を青くした。


アキホは涙を流し、ミサキはそれを見て、自分は強くあろうと目に力を込めた。


「話は終わりだ」と執務室を追い出されて、ミサキとアキホは与えられた建物の女子部屋に戻った。


泣き崩れるアキホの背中を摩って慰めて、アキホが泣き疲れて眠ってしまう迄横で声をかけ続けた。


アキホが眠った後、1人になったミサキは緊張の糸が切れて静かに泣いた。


なぜこんな事になるのか。異世界に呼び出された時は物語みたいで少し嬉しかったが、日が経つ毎にその嬉しさなど無くなっていった。


家族に会えない寂しさや、現代とは違う不便さに帰りたいと何度も思った。


そして、今度は戦争に殺し合いだなんて……


ミサキは絶望に打ちひしがれながら、アキホを起こさない様に静かに泣き続けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る