第63話 宣言
式典に集まった国の中には、ここまで来たものの、不平不満を言う者達はいた。
特に、エクリアと同格の国はドラゴニア王が出席しなければ来なかったであろう。
通された席でも、その様な国々が身を寄せ合って話している。
ドラゴニア王の姿が見えない事も、不満の声が上がる原因の一つであった。
そんな中、ダスティブ王は1人、周りの話に聞き耳を立てて優越の笑みを浮かべていた。
エクリアの発表の後、自分がこの場を借りて勇者召喚の話をする事を想像しているのだ。
ドラゴニア聖国は長きに渡り人の国のトップに君臨して来た。
それは異世界人である勇者の血を引き、勇者が従えていたドラゴンをいつまでも手なずけていたからだ。
そのパワーバランスは今日崩れる。
ダスティブ王国が召喚した勇者によって自国ダスティブがトップに君臨するのだから。
そう思うと、ダスティブ王のニヤニヤは止まらなかった。
ダスティブ王の様に、国王であれど、歴史をきちんと認識していない人達は沢山いた。
伝承とは、美化され、尾ひれがつく物であり、勇者がドラゴンを従えていたと思っている者も多い。
実際には、勇者の人となりを気に入ったペトレが、酒の席で「お前の子孫の面倒を見てやる!」と言った口約束が、ペトレの気まぐれで今まで続いていただけなのだが、そこまでの事はアグニールも知らない事だろう。
一般的に知られているのは、ドラゴニア聖国を作った人間は、異世界から来た勇者と言われる強者であり、ドラゴンと友の契りを結んで盟友となった。
その名残で、ドラゴニアはドラゴンの加護を受けて繁栄していった。
そして今も、ドラゴンの守護がある為、ドラゴニア聖国には手を出してはならない。
と言う物だ。
実際、ペトレの住む山はドラゴニア聖国の裏にあり、ドラゴニア聖国を攻撃する事は、ペトレの棲家を攻撃する事になるのだから、ペトレは攻撃して来た国に反撃するだろう。
ともあれ、式典の話をしよう。
式典はエクリア城の前を使ったガーデンパーティーの様な形式で、これも来客の王族達が不満を漏らす理由である。
エクリアの貴族達も全員集められている。
貴族席と他国王族席で分けられているものの、雰囲気は異様であった。
シュナイゼルが登場すると、ざわついていた会場は静かになった。
「諸君、私の呼び出しに応じてくれた事を嬉しく思う」
シュナイゼルの言葉は、他国の王族に対して無作法だった。
まるで自分の配下の貴族達に言う様な、上からの言葉だったのである。
勿論、他国の王達はざわくつが、それを無視してシュナイゼルは話を続ける。
「さて、今回呼び出した理由だが、まずはアグニール王に来て頂こう」
シュナイゼルの言葉と共に城の門が開き、アグニールが登場した。
ざわついていた他国の王達は途端に静かになった。
文字通り、ドラゴニアは格が違うと言う事なのだろう。
「諸君。此度の呼び出しは人と言う種族にとって大変重要な意味を持つ事になるだろう。
まずは、我がドラゴニア聖国と、シュナイゼル王の治めるエクリア帝国の対等な二国同盟をここに宣言する!」
この宣言に、エクリアの貴族達は拍手喝采である。
つまり、エクリアは他国を差し置いて位を上げたと言っている様なものだからだ。
しかし、そうなると他国は面白くない。
内容が衝撃的なだけにポカンとしている国王もいるが、ドラゴニア聖国の手前、批判できないものの、悔しそうな目でシュナイゼルを睨む者も多く居た。
「さて、何故ドラゴニアとエクリアが同盟を組んだのか不思議に思う者もいるだろう。 その話をする前に紹介させて貰いたいお方がいる」
アグニールの言葉と共に、ムツキ、エレノア、シャーリーが城から登場した。
黒衣を纏ったムツキと、貴族達の見た事のない形のドレスを着用するエレノアとシャーリーはアグニールとシュナイゼルよりも、高い場所で止まった。
「この方はムツキ殿。我がドラゴニアとエクリアはこの方の傘下に入る為に位を揃えるべく、同盟を組んだのだ」
アグニールの宣言にエクリア貴族の拍手は鳴り止み、他国の王達もアグニールの戯言と苦笑いだ。
しかしアグニールは続ける。
「この方は我が国の守護ドラゴン《ペトレ》様と赤のドラゴン《ボロネ》様の主。よって、人類の頂点にいるお方である」
アグニールの宣言に合わせて、会場に2体のドラゴンが降り立ち、ムツキの背後に並んで着地した。
「我が主人に意見があるなら言うてみるが良い。我々がその国を更地に変えてやろう」
ペトレの言葉の後に、ボロネが威嚇する様に叫んだ。
それだけで苦笑いだった他国の王達の顔は引き攣った物に変わった。
「理解して頂けただろうか? そして、我が娘エレノアをムツキ殿の第一夫人、シャーリー嬢が第二夫人となる事も同時にお知らせしておこう」
シュナイゼルの言葉は、しっかりとムツキとエクリア、ドラゴニアの絆を知らしめる為の物だった。
エクリアの貴族達は鳴り止んでいた拍手を再び初めて拍手喝采。
他の国々もこの宣言に拍手するしかなかった。
言わばこの拍手は敗北を認める物だ。
ムツキは、こうして、人類の君主となる事になったのであった。
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