第37話 プレゼント

ムツキは緊張しながら席へと座った。

にこやかにお茶を淹れてくれる美しい女性に「砂糖は2つでいいかしら?」と聞かれたがはい。確か返せなかった。


これは…圧迫面接!


違います。

しかし、流れで決まった婚約とは言え、婚約者の母と話すのは緊張する物だ。

シュナイゼル王に勧められて、いや、ゴリ押しで決まった婚約だが、その時にこの女性はおらず、今日は義母に品定めされるのかと緊張してしまう。


どうぞ。と言って出されたお茶を一口飲むが、緊張で味を感じなかった。


「それでね、ムツキ君」


「はい」


女性の方から話し始めた。今から何を聞かれるのだろうか?

自分の心臓の音が聞こえる様な気がする。


「急に呼び出してごめんなさいね。

私はエリザベート。エレノアの母よ。2週間ほど雲隠れしてもらったのだけれど、貴族が騒いでいるのが治っていなくてね

身を隠す為にここに来てもらったのよ。エレノアがあなたに会えないからって機嫌が悪くてね」


「お母様!」


女性、エリザベートがエレノアの慌てた声を聞いて口元を手で隠して意地悪に笑った。


「そう緊張しないでちょうだい。別にムツキ君がうちの娘には相応しくないなんて考えてないから」


「え?」


ムツキは気の抜けた返事をした。

相手は女性貴族の社交界で鍛えてきた猛者であり、ムツキの考えなどお見通しだったようだ。


「貴方は平民だもの。鬱陶しい貴族に茶々を入れさせない為にここに匿ったのよ。このお茶会はエレノアが貴方とデートできない鬱憤を晴らしてあげる為の物よ。

さあ、イチャイチャしなさい」


「だからお母様!」


エレノアは顔を見て真っ赤にしてまたエリザベートの抗議の声をあげた。


ムツキは素直に可愛いと思った。

エリザベートがムツキに向けてウィンクしてる所を見ると、場を和ませる為にやっているのだろう。


ムツキはこのまま黙っていれば、エレノアの顔が更に真っ赤になっていくだろうと思った。

それはそれで可愛いかなとも思ったが、話を変える事で助け舟を出すことにした。


「ありがとうございます、お義母様。

実は、エレノアにプレゼントがあるのですが今渡してもよろしいでしょうか?」


その言葉にを聞いたエリザベートは「あらあら」と言いながら興奮気味で了承をした。


「エレノア様、これは私の気持ちなのですが受け取って貰えるでしょうか?」


プレゼントと言いつつも、気の利いた箱などに入っていない自作の髪飾りを机の上に置いた。


金と銀の線が編み込まれた細かい羽の様な細工に薄ピンクの宝石が嵌め込まれた髪飾りだった。



「わあ、すごい綺麗。頂いてもよろしいのですか?」


「勿論。エレノア様の為に作ったんだから」


「ムツキ様がお造りになったのですか!…すごい」


エレノアの声は感動に熱を帯び、潤んだ瞳をムツキに向けるそれは完全に2人の空間を作り出していた。

それはそのままキスでもしそうなほどに。


「おほん!」


しかしエレノアは未婚の、それも王族の女性だ。

しかも母親の前であり、エリザベートの咳払いでそれ以上先に進むことはなかった。


エリザベートの存在を思い出したエレノアとムツキは慌てて、しどろもどろになりなってしまった。


「ムツキ君、エレノアに付けてあげないの?」


初な2人にエリザベートが助け舟を出した。


「ムツキ様、お願いできますか?」


「うん」


ムツキは椅子から立ち上がると、エレノアの髪にプレゼントの髪飾りを付けてあげる。


「似合ってる」


「ありがとうございます」


ムツキの言葉は反射の様に考えずに出た素直な言葉だった。

飾りけのない言葉だったが、エレノアは頬を染めてお礼を言う。


その2人の姿を、エリザベートは満足そうに見ていたのだった。

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