第36話 帰還
ムツキは休暇、もしくは雲隠れを終えてエクリア帝国の首都エクリアまで戻ってきた。
2週間という期間であったが往復の移動で1週間使ってしまうので実質バンヤンハイで過ごした時間はそれ程長くはなかった。
「ムツキさん、向こうはたのしかったですか?」
乗り合い馬車の停留所に着くと、ムツキの到着をリフドンの店の店員であるミールが待っていた。
「ミール君、どうしてここに?」
ムツキはそう質問しながらも、なんとなく良くない事だろうと想像ができていた。
と言うのも、今回の乗り合い馬車の到着は2日遅れている。
それに、日本の電車の様に時間がこの時間と決まっているわけでもない。
乗り合い馬車は出発の時間だけが決まっており、それも、こうして予定よりも到着が遅れれば、日を跨ぐ事になる。
今回帰りの旅は、生憎の雨が続いて足元がぬかるみ、馬の体力が通常よりも奪われてしまう為、1日の移動距離を短くして帰ってきた。
魔物等他のトラブルも無かったので2日遅れだが、他のトラブルも重なれば到着は更に伸びていた事だろう。
しかしこれが普通なのである。
それは貴族の馬車であっても変わらない。
無茶をして途中で馬が駄目になれば割を食うのは乗っている貴族なのだから貴族も文句はいわない。
勿論、馬が立派な分乗り合い馬車よりも早かったりするのだが。
となれば、ミールがムツキを出迎える為には今日来るかも何時に来るかも分からない馬車をムツキが到着するまでずっと待って居なければならないのである。
ミールとは一緒に旅をした仲だが、そこまでして出迎えてもらうほどの仲では勿論ない。
リフドンの命令でずっと待っていた事は想像できるし、リフドンがそこまでしてムツキに連絡を取りたいとなれば王族、又は貴族絡みだろう。
それに、ムツキはリフドンに紹介してもらった宿に宿泊している為、そこで伝言を残しても良いはずだ。
馬車降り場で待っていたとなると、相当急ぎな訳で、余裕のない話だろう。
余裕がないと言うことは大体悪い話だ。
会社員だった時は大体そうだった。
「それはリフドンさんに聞いてください。僕は伝言を頼まれただけなので」
ムツキの予想は的中し、リフドンにあった後は城の裏口から見られない様に城に入る事になった。
裏口と言っても、普通の裏門では無く、こんな所から入れるの?と言った場所だった。
一体リフドンって何者なんだろう。
そうは思っても聞くに聞けないのがムツキであった。
城に入ると、ムツキは前に入った事のある真ん中の1番大きな建物では無く、隣の建物へと案内される。
「ムツキ、こっちの通路は絶対に使うなよ。
この先は奥の離宮。シュナイゼル以外の男が入ったらそれだけで死刑だからな」
リフドンは笑いながら一つの道を指差すが、ムツキは勢いよく首を縦に振った。
リフドンに案内された先にあった扉の前で止まった。
「ムツキ、ここからはお前1人で行け」
「え?」
「大丈夫。悪い様にはならない」
ムツキはリフドンと扉を数回交互に見た後、意を決して扉を開ける。
飲み込んだ唾の音が、いつもの倍の大きさで聞こえる。
扉の先は白く、とても眩しく光が入り込む部屋で、テーブルにはエレノアと美しい女性が座っていた。
「ムツキ様!」
エレノアが笑顔でムツキを呼んだ。
「エレノア、少しはしたないですよ。
初めまして、ムツキ。まずはお座りになって、お茶でも飲みながらお話ししましょう」
美しい女性に勧められるまま、ムツキは席に座った。
ムツキはこの状況、この女性の正体をなんとなく理解して、背中に汗が伝う様な気がした。
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