第35話 ご機嫌ナナメ

エレノアは、ご機嫌斜めであった。

仕方のない事だとは分かっている。

しかし、機嫌が悪くなる事くらいは許して欲しい。


初デートの日に問題が起こってしまったせいで、それ以降のデートは無期限の中止になってしまっている。

それどころか、少しの間ムツキはこの街を離れて別の街である。


初めのうちは、カッコいいムツキの姿を思い出して、余韻に浸る事で凌ぐ事が出来た。

でも、2回もデートが無くなった事を思えば少し機嫌が悪くなるくらいは許して欲しい。


「エレノア、機嫌が悪いならその分こっちで発散していけ」


カインにそう言われて、毎日剣術に打ち込んでいるおかげで、そっちの方はメキメキと上達しているのだが。




ある朝、お父様に呼び出された。

部屋に入ると、お父様と、お母様が待っていた。


「お母様、大丈夫なのですか?」


エレノアの母、エリザベートは体が悪く、こうして出てくる事は少ない。


「ええ。今回の事はリガルドに関わる事ですから。

でも、エレノアには迷惑な話よね。せっかくデートを邪魔されたあげく、次のデートもできないなんて」


今日のお母様は少し元気そうだ。血色が良く笑顔がとても柔らかい。


「はい。お父様、やはり貴族の方達は騒いでいますか?」


「そうだな。あそこにエレノアがいた事も、一緒にいた人物、つまりはムツキも話題の中心だ。

貴族の名を騙られた事よりもこちらの方に注目が集まっているのは、何というか」


お父様は困り顔でそう話した。


「でも、ムツキ様はもうすぐ帰って来られるのですよね?」


「予定ではそうなるな。しかし、それまでにこの話は収まらないだろうな」


そうなったら、ムツキ様はどうなってしまうのだろうか?貴族に絡まれて、迷惑をかけるのは嫌だ。


「なら、貴族に手を出される前に王宮に呼んでしまいましょう。

私の居る正妃宮でもてなせば貴族も手出しできませんから。エレノアも一緒にお茶しましょうね」


「え、いいのですか?」


お母様の提案に、私は期待を込めた目でお父様を見た。


「そうするのが1番よさそうだが、エリザ、ムツキに無茶を言ってはダメだよ。勿論、エレノアもね」


「はい!」


私は、満面の笑みでそう答えた。

その日以降、私はムツキ様が帰って来られる日を心待ちにしている。

鼻歌を歌ってメルリスに揶揄われたり、カイン様に揶揄われたりしながら、ムツキ様の帰還を待つのだった。

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