第24話 王女の意思

「で、では、私が王女様を嫁に貰わなければ平和的解決は認められず、戦争をすると言う事でよろしいですか?」


ムツキが絞り出した答えはそんな言葉だった。

シュナイゼル王はムツキとは敵対したく無いと言った。

だから、王女を嫁にもらえと言う事だ。

なら、婚約して争いを回避するか、婚約せずに争いを起こすかの二択だと言うのか?

その間をとって他に手を取り合う方法はないのか。

ムツキの質問にシュナイゼル王はピクリと動いた。


「ムツキよ、それは我が国と戦うと言う事か?」


部屋のに緊張が走った。

ムツキの隣でリフドンがあたふたしている。自分が連れてきたのだから、どうしようかと言ったところだろう。


「いえ、私はこの国、エクリア帝国と事を構えるつもりはございません。

しかし、シュナイゼル王が私を殺すと言うなら全力で抗うでしょう」


ムツキは他の道はありませんか。と回りくどい言い方で言ったつもりだった。

なぜなら、婚約の申し込みを断られたと言う事実を作ってしまえば、王女様の経歴に傷がつく。

だとすれば、自分から取りやめた方が良いだろうと思ってのことだった。

それに、自分の意思でない結婚と言うのに、やはり抵抗があった。自分も、相手も。


「漆黒の君は私がお嫌いですか?」


しばしの沈黙を破ったのはそんな王女の声だった。


「い、いえ。そんな事は…」


「やはり、お姉様の様な大人の女性のがお好みですか?

私の様な小娘には興味がないでしょうか」


「そんな事はありません、王女様もとてもお綺麗です。しかし、王女様も私の様なおじさんに嫁ぐのはいやでしょう?

これから好きな方が見つかるかもしれません。

王女様の年齢でしたらまだ学生でしょう?

好きなクラスメイトとか居られるのではありませんか?」


まさか王女から反撃が来るとは思わなかったムツキは、しどろもどろになりながら王女様の説得を試みる。

しかし、ムツキはやはりまだ分かっていなかった。

こちらの常識と元の世界の常識との違いを。


「私は貴方と結婚しなければ何処かの貴族に嫁ぐでしょう。愛などは有りません。

それなら、私を魔者から助けてくださった貴方、漆黒の君に嫁ぎたい」


ムツキは、その真剣な眼差しにたじたじだ。

恋愛経験など、ほとんど無く、大学の時にサークルの先輩と付き合った一回きり、その一回も、半年と続かずに振られてしまった。

つまり、女性にアピールされる事にあまり慣れていないのである。

ここまで真剣な言葉には、はぐらかすのでは無く、きちんとした言葉を返さなければいけないと思った。


「私は、貴方のことをまだ何も知りません。

だから綺麗だと思うけれど、恋愛感情は無いのです。だから、結婚など考えられません」


エレノアの顔が少し俯いてしまった。ムツキの言葉への返事もない。


「ムツキ、そこまで難しく考える事はないんだ」


口を挟んだのは、今まで沈黙を貫いていたカインだった。


「エレノアの事を綺麗だっておもうんだろ?

婚約したからすぐ結婚と言う訳でもない。

お前ほどの実力があれば妻は何人か増えるだろう。

一度婚約してみればいい。良い経験になる。

それからエレノアの事を知ってやればいいんだ。

そうすればシュナイゼルも安心できる。

お前も戦わなくて済む。婚約の事を発表さえしなければ、めんどくさい事にはならないさ」


どうやらこの世界は一夫多妻が認められている世界で、1人を愛しなさいと言うわけではないらしい。

だから、これ程までに話が早いのだろう。


カインの言葉に、エレノアは目を輝かせて顔を上げ、キラキラとした目でムツキを見つめた。


その顔を見て、ムツキはもう断る事は出来ないと悟った。


「…分かりました、お受けします」


外堀を埋められ、本人の意思も前向きとあれば、必死に足掻いても逃れる術はなかったのだ。


こちらの世界に来て一月もしないうちに、婚約者ができてしまったのであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る