第25話 現実逃避
城でいきなり婚約者が決まってから一夜明けて、ムツキは現実逃避の為に街の外で魔物狩りに勤しんだ。
ねずみ算によって上がったステータスは魔物を一撃で屠り、マルチの力で取得した収納魔法に次々お放り込んでいく。
ちなみに、収納魔法の容量はMPによって変動する様で、ムツキはこちらもねずみ算の効果で無限と言える程の収納力を持っていた。
目に見える範囲の魔物を全て狩終わった時、後方から拍手する音が聞こえた。
「それくらいにしてくれないと街の傭兵達が路頭に迷う事になるんだが?」
振り向くとそこには傭兵であろう見た目のチームが居た。
4人グループの1人が拍手をしながらムツキに注意をした。
特に全滅させてはいけない。なんてルールは無いのだが、街の周りは弱い魔物が多く、弱い魔物は駆け出しの傭兵の収入源になっている。
その為、マナーとして強い傭兵は街の周りでは狩りをしないと言うのが暗黙のルールだった。
この事を伝えてなかったキリィの事を責めてはいけない。
レベルが上がる前のムツキの実力は駆け出しより少し強い程度で、厳密には傭兵にはなっておらず魔物を納品する一般人。
それに戦闘を見た限り今日の様な事を想定しておらず、仕事をこなす中で色々と知っていけばいいと思っていたからだ。
ムツキは注意された事に素直に頭を下げた。
むしゃくしゃしていたとは言え、やり過ぎたと思ったからだ。
「やけに素直だな。もしかして、ほんとに知らなかったのか?」
傭兵の1人がそう質問して来たのでムツキは素直に頷いた。
すると傭兵は呆れながらも、暗黙のルールや、強い魔物が出るポイントなど、色々な事を教えてくれた。
傭兵達と別れて傭兵ギルドに戻って来ると、ムツキは納品を済ませる為にカウンターへと向かう。
さっきは失敗したな。と考えながらメリーナルに納品確認をお願いする。
さっきの戦闘の時も簡単すぎて昨日決まった色々な事を考えない様にする暇は無かった。
今でも思い返すと気が重い。
婚約が決まったエレノアとは週に2回デートやお茶をして親睦を深める事になっている。
そして、話を隣で聞いていたリフドンがムツキに気を遣ったのか、ムツキが旅をしたいと言っていたとう事をシュナイゼル王やエレノアに伝えた。
すると、ムツキが旅をする時に、エレノアが一緒に行きたいと言い出したのだ。
旅に出ればすぐに会えるわけでは無いからと言って。
婚約が決まって、エレノアは恋に恋している状態だと感じた。
年頃の女性らしいともいえるが…
その感情がいっときのものなのか、これからどうなるのかは分からない。
しかし、一緒に旅をするには危険がつきまとうかと思うのだが、意外とシュナイゼル王は乗り気で、カインとニコラスに指示してエレノアを鍛えると張り切っていた。
勿論エレノアも。
似たもの親子だと思った。
などと考えながら納品を行った物だから、いつもは隠れて納品分だけ収納魔法から出して来るのだが、ついつい受付で収納魔法から直接、しかもいつもより多い魔物を取り出してしまった。
「ムツキさん!」
メリーナルの驚きの声で現実に引き戻されて、自分がやらかした事を悟った。
「ムツキさん、気をつけて下さい。今はまだギルドに人が少ないから見ていた人はほとんど居ないでしょうが、ムツキさんが収納持ちだと噂されればよからぬ事を考える人もいるんですからね」
メリーナルがひそひそ声で注意してくれるのでムツキは素直に謝るしかない。
「だけど、ムツキさんってそうだったんですね。もしかして、まだ中に入ってます?」
収納と言う言葉を使わない様にしてくれているものの、中に入ってます?とはそう言う事だろう。
メリーナルは悪い人ではないと思っているので、ムツキは素直に頷いた。
「だったら今度から別室で受け取る様にしますね。特別処置です」
特別待遇をしてくれるようである。
「あ、今日納品したいとかあります?」
今日出した分は換金してもらうのだが、追加でしますかと言う事だろう。
せっかくなので納品をお願いする。
そして、今回から別室を用意してもらう事になった。
このやりとりを見て、慌ててギルドを出て行った人物がいる事に、誰も気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます