第23話 褒美
ムツキは、入れてもらった紅茶も飲み干し、リフドンの質問攻めも落ち着いてしばらく静かな時間が流れた。
キャニーさんと交代したメイドさんがおかわりで入れてくれた紅茶はキャニーさんの物よりも少し渋く、やっぱり人によって紅茶の味って変わるんだな。
などと考えていた。
ゆっくりとした時間が流れる中、別件が終わったのか、シュナイゼル王達が部屋へとやって来た。
「ムツキよ、待たせてすまなかったね」
部屋にやって来たのは先ほどの様な王族オールスターではなく、シュナイゼル王とカイン、ニコラスのはじめに会った人達と、王女様が1人だった。
「いえ、美味しいお茶を頂いてましたから」
ムツキは体に染みついた下手に出る返事でシュナイゼル王は頷きながらソファに腰を下ろした。カインとニコラスは以前の様に後ろに立ち、お姫様はシュナイゼル王の隣に座った。
「さて、まずは謝罪から始めよう。
娘を助けてくれたにも関わらず、他の者を祭り上げ、挙句にはその者の叙爵式に招待してしまった。不快な思いをしただろう。すまなかった」
そう言ってシュナイゼル王が頭を下げようとしたのでムツキは慌てた。
王様に頭を下げさせるなどムツキの会社員の心臓には負担が大きかった。
自分より立場が上の人間に頭を下げさせるなど対応に困り、精神に負担しかかからない。
取引先の社長に頭を下げられると想像しただけでも胃が痛くなる。
結局許すしかないのだから、尊大な態度で「すまぬな」くらいですませてもらった方がこちらも「はい」で済ませるのだ。
頭まで下げさせたならこちらもそれを取り繕わなくてはいけなくなる。
「そんな事はありません。こちらもあの場から逃げてしまいましたし、勘違いさせたのは私ですので…」
とまあこんな風に相手が悪いわけではなくこちらが悪いと言わなければならないのだ。
「それでも、ムツキの名誉を奪ってしまった。本来なら、褒美の一つも与えなければならないのに」
「いえ、大丈夫です」
食い下がらないで欲しい。もういいと言っているのだから。
「そうか?ではこれで和解としよう」
シュナイゼル王の謝罪が終わった事に、小市民ムツキは胸を撫で下ろした。
「それでは本題に入ろうか」
シュナイゼル王の次の話題にムツキはギョッとした。話は終わりだと思っていたからだ。
「娘を助けてくれた功績は大きく、またカインと互角に戦える程の実力者。
我が娘の婚約者に相応しいと思うのだがどうだろうか?」
どうだろうかと言われても、はいそうですかと返せる話題ではない。
ポッと出の一般人が王女を婚約者に貰うとか貴族達の恨みを買うだろうし、めんどくさい事になる未来しか思い浮かばなかった。
そもそも、王女との婚約なんて物は物語などで勇者を祭り上げる為の行為にしか思えなかった。
そもそも王女が自分に嫁ぐとしよう。
日本なら皇族の女性は一般人と結婚すれば皇族の身分を離れて一般人となる。
しかし、それができるのはあちらの世界の倫理観だからこそだろう。
見た感じ、こちらの世界は王政でもあるし、貴族と平民の身分の差は大きいだろう。
王女が平民に降りた途端に貴族が寄越せといちゃもんをつけて来た。などトラブルの匂いしかしない。
断ろう。
ムツキはすぐにそう思った。
しかし、結構です。で断れる物ではなく、最悪不敬罪で殺されてもおかしくない。
言葉選びは慎重にしなければいけない。
ムツキは気合いを入れた。
「大変嬉しいお言葉なのですが、私はこの国のものではなく、更に平民。王女様とは身分が違います。
それに、私と王女様の年齢はとても離れている様子。お戯れはおやめ下さい」
ムツキは目一杯言葉を濁したが、どう取られるだろうか。
場合によってはステータスに任せて逃げないといけないかなあ。
そんな事を考えていたムツキに、シュナイゼル王の返事は更に斜め上をいく物だった。
「何を言っておるのだ。ムツキとエレノアの年齢差位なら沢山いるだろう?」
ムツキの年齢は27歳、エレノアは16歳。歳の差はあれど、その差は11歳。
日本でも、27歳と16の高校生が付き合っているなどと言われれば倫理観を疑われるが、いい年齢になれば10歳差ぐらいのカップルや夫婦はごまんといる。
歳の差だけ見れば何らおかしくもなく、この世界では、王女の年齢でも倫理観の問題は起こらない様だ。
そしてシュナイゼル王の話は続く。
「私はな、ムツキ、お前が怖いのだよ。魔者を瞬く間に蹴散らし、カインさえも涼しい顔でやり過ごすお前が怖い。
その恐怖感を拭い去るには、恐怖の元を消すか、仲間に引き込むしかありえない。
しかしムツキは我が国の戦力を総動員して大きな被害が出る未来しか見えない。
だから、敵対したくない。味方に引き込みたいのだよ。
婚約ならば、すぐに発表しなくてもよい。
ムツキがこの国の国民となり、爵位を貰うまで発表せずとも良いのだ。
婚約と言う事実があり、ムツキが私の家族であり味方なのだと思えればそれでいいのだよ」
取引先の社長に、外堀を埋められいい人を紹介されるのはこんな気分なのだろうか。
ムツキはどうやって返事を返そうか必死に考えるのだった。
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