第22話 話し合い

「それで、ムツキの事だが…」


シュナイゼルは次の話題を言葉に出して、目線をカインへと向けて話を振った。


「とりあえずムツキと縁を繋ぐのは決定事項だ。アイツが他の国に取られたら大変だぞ?」


「そうですね。妖精が見える事を考えても国に取り込むべき人間でしょう。

彼がこの国に留まるかはわかりませんけどね」


カインの言葉に自分の意見を添えてニコラスが肯定した。

その為に、カインにニコラスを呼んできてもらったのだ。


「シュナイゼル、貴族の娘を嫁に付けろ。婚約者でいい。爵位の高い方がいい。いや…」


カインはそこで言葉を切ってチラリと視線を向けた。


「それ程までか。ふむ」


シュナイゼルはカインとニコラスの意見に少し考える仕草をみせる。

先程のカインの視線はチラリとロザリィとエレノアに向いた。つまり、王女を嫁に出してでも繋ぎ止める逸材という事だ。


問題があるとすれば国内の貴族だ。

今王女は2人。王女は貴族との繋がりを強くする為に派閥ごとの貴族家へと嫁ぐのが通例である。

どちらかがムツキへ嫁ぐとすれば、どちらかの派閥に嫁ぐ王女がいなくなると言う事。

しかも、王女が嫁いだ先。つまりどちらかの派閥から王女を奪った相手が平民だと色々とうるさい貴族は出てくるだろう。

それがあるから、カインは途中で話を区切ったのだ。


しかし、それを口に出さないまでも考えるくらいにムツキと縁を繋ぐ事が大事だと考えたわけだ。


シュナイゼルはカインの軍師としての才能にも信頼を置いている。

国内の政治は大事だが、それも国の平和があってこそ。

カインの助言は、ムツキが他国の戦力になればこの国が危ないと言っているのだ。

だとすれば、シュナイゼルの答えは決まっている。

貴族達は自分の政治の腕な見せ所だと言うだけの話だ。


「それでは、エレノアをムツキの婚約者としよう」


シュナイゼルの言葉に、予測できていたカインやニコラス、グリッドは驚かなかったが、王子や王女からは驚きの声が上がった。


「父上、エレノアは貴族に嫁がれなければどちらかの面子を潰す事になります」


声を上げたのは第一王子のクラウセルだった。

他の王子達も同意見だと頷いている。


「ムツキの存在はそれを曲げる程だと言う事だ。縁を繋ぐのが遅れれば国が滅ぶ可能性がある程に」


シュナイゼルの説明にそれ程までかとクラウセルは唸った。

カインとの戦闘は見ていたが、あの一撃にどれだけの意味があるのか理解できるレベルでは無かった。カインが相当手加減したのだろうと考えているし、カインがここまで言う意味も理解していなかった。


「エレノア、いいね?」


「はい。私はお父様の命令通りに嫁ぎます。それが王女としての使命ですから。

それに、命を助けてくれた漆黒の君に嫁げる方が幸せです」


シュナイゼルの言葉をエレノアは了承した。

貴族の女性は政治の道具であり、家の繋がりを強くする為に嫁ぐ。

勿論学生時に恋に落ちた2人の家が、縁を繋ぐに相応しい家同士だった場合は恋愛結婚が叶う場合があるが、稀な話である。


なのでエレノアはいつ自分の婚約者ができても納得する気でいた。


「とりあえず方針は決まったな。後はムツキがどう反応してくれるか。本来ならムツキに爵位も与えたい所だが、それは難しいからな」


国の人間ではない人物にいきなり爵位を渡す事はできない。

どの様な人物かわからない為、貴族と言う特権階級を渡してしまうのはあまりに危険であるし、元々の貴族達との兼ね合いもある。


そう考えれば、いきなり王女を嫁に出す今回の事がどれだけ異例か分かるだろう。

それだけ、ムツキの存在が脅威だと感じられたと言うことだ。


「それでは、ムツキの所へ向かおうか」


方針が決まったので、シュナイゼル達はムツキを待たせている部屋へと移動するのだった。

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