第21話 罪と罰
ムツキとリフドンは他の人達とは別室に通された。
先に城の問題を片付けてくるそうだ。
キャニーが部屋を出る前に用意してくれたお菓子とお茶をいただきながら、ムツキはリフドンからの質問攻めにされた。
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一方、部屋に戻ってきたシュナイゼル達も一息つく為に椅子に腰を下ろした。
カインだけは、所用で席を外している。
模擬戦は短かったが、短かったが故に衝撃を受けるものだった。
「カイン様に勝ってしまわれるなんて、漆黒の君はとても凄い方でしたね」
初めに話し出したのはエレノアだった。
「そうだね。まさかカインの剣を指で掴むとは。オークを倒した事に疑いは無くなったな
しかし、そうなると貴族達にも説明をしなくてはいけないな」
今回、近衛騎士のウーバーンに爵位を与える叙爵式の最中にこの事実が発覚した。
本来の功労者であるムツキに申し訳が立たない。だけの問題ではなかった。
爵位を叙する事は、特権階級の仲間入りを果たす事になる。
貴族となり、年金を貰う他、貴族ならではの権利も多い。
勿論、それに伴う責任も背負うわけだが、だからこそ、間違いで貴族にしちゃうところでした。
では済まされないのだ。
「ひとまず、ウーバーンとユーリネには罰を与えなければ」
シュナイゼルの言葉に、ウーバーンは項垂れただけだが、ユーリネはあろう事か反論を始めた。
「なぜ、私が罰を受けなければいけませんの?」
「なぜってユーリネ、今回の騒動の発端が君だと言う事は理解しているかな?」
「私は悪くありませんわ。だって私が勘違いしてもウーバーンが否定していればこんな事になりませんもの!それに、あのムツキとか言う平民が逃げたのがいけないんですわ!
そうですわ!逃げたのは何か後ろめたいことがあったから。きっと何か余罪を隠しているのですわ!ねえ、そうでございましょう?」
シュナイゼルは、あいた口が塞がらなかった。
他の皆も言葉を失っている。
自分の都合のいい様に話を作り上げる才能がずば抜けている事は発覚した。
エレノアの見習い世話係として働いて一年以上経つはずだ。それなのに悪い意味で貴族の娘としての自尊心が抜けず、世話係として成長していない。
しかし、エレノアの世話係となる為にキャニーが指導しているはず。教育はしっかりとされているはずだ。
いや、さっきの言動から察するに、教育さえも都合のいい様に理解していたのかもしれない。
そこまで考えて、シュナイゼルはため息を吐いた。
「もういい。ユーリネ、君は王宮メイドとしての任を解く。実家に戻って謹慎していなさい。罰は追って伝える」
「なぜですの、納得っきませんわ!私はムーヌ伯爵家の女ですのよ。王宮メイドとして箔を付けなければなりませんわ。
それに、エレノア様の教育係ですのよ。そう簡単に任を________」
「連れて行け!」
喚くユーリネをシュナイゼルの指示で入り口の外を守る騎士を呼んで引きずって連れて行かせた。
「申し訳ありません。私の教育が行き届かずに不快な思いをさせてしまいました。
罰はこの命を持って___」
「よい。しかしキャニーよ、なぜ報告を上げなかった?
エレノアの世話係にふさわしく無いと分かれば私に報告を入れなければ行けないだろう。なぜ怠った?」
キャニーの謝罪を言葉で遮り、シュナイゼルはこうなった理由をキャニーに尋ねた。
「はい。報告は王宮メイド長に何度か上げております。しかし、見習い世話係の交代の人事は来ませんでしたので陛下の判断だと思っておりました」
「なに?」
シュナイゼルはそんな報告など受けていなかった。
メイド長が報告を止めた?
シュナイゼルに妻が2人いるのは貴族の派閥毎に娶らねばならないから。
勿論2人とも愛しているが、妻同士仲が良いかと言えばそこは派閥の影響が出てくる。
今のメイド長は第2王妃の派閥貴族の家の出身である。
勿論メイド教育時に派閥を持ち込まぬ様に教育を受けるはずだし今までその様なそぶりは見せなかった。
しかし…
「ヒスリーメイド長を呼べ」
シュナイゼルの指示でキャニーはメイド長のヒスリーを呼びに向かった。
「さて、ヒスリーが来るまでにウーバーンの罰を決めておこう。
ウーバーンよ、お前を降格処分とする。
下級騎士としてガリリム砦への転属を命ずる。前線で功績を上げれば戻ってくることもできよう」
シュナイゼルはこう言っているが、ガリリム砦は魔者領にある前線の砦である。
功績を上げるまでに死亡する確率も高い左遷先である為、よっぽどでない限り戻ってくる事はないだろう。
ウーバーンは了解の礼をとるが、明らかに気落ちしている様子である。
そのまま退室を命じられ、部屋を出て行った。
ウーバーンと入れ替わる様にキャニーより歳上、65歳のメイド長であるヒスリーが部屋にやって来た。
「ヒスリーよ、キャニーはエレノアの見習い世話係であるユーリネの異動を希望していたそうだが私にまで伝わっていない。どう言う事か?」
「は。確かにキャニーからその様に報告を受けましたが、バーバラ様に報告した所、そのままユーリネに任せる様にとのことでしたので」
シュナイゼルはそう報告したヒスリーに怒りを露わにした。
ちなみにバーバラとはロザリィの母。第2王妃の事である。
「ヒスリー、お前はいつから俺ではなくバーバラに仕えている?」
「は?」
「いつからバーバラの家来になったのかと聞いているのだ!」
部屋にシュナイゼルの怒りの声が響いた。
城に仕える者はこの城の主人であるシュナイゼルの配下である。
それが主人に報告せず、派閥を優先してバーバラに報告を上げ、ましてや指示を仰ぐなどあってはならない事だ。
「もういい。ヒスリーもメイド長の任を解く。代わりにキャニーがメイド長を勤めよ。
キャニー、お前は俺を失望させてくれるなよ?」
「はい。精一杯務めさせていただきます」
ヒスリーはそれを聞いて膝から崩れ落ちた。
耳に届かない様な声で「そんな…」と呟いている。
ずっとここにいられても邪魔な為、またドアの外で入り口を守る兵士を呼んで連れて行かせた。
「さて、バーバラよ。お前も分かるな?」
「…はい」
「派閥を優先して
私が許すまで離宮で謹慎していなさい」
バーバラ第2王妃は、シュナイゼルの言葉を聞くと、ゆっくりと自分の足で離宮へ向かって行った。
一応、これで今回の件で罰を与えるべき人には罰を与えた事になる。
いや、あと1人か。
「エレノア、お前も王女ならば王族としての態度を身につけなさい。
下の者にはキチンと命令できる技量を。
王族が今回の様なていたらくでは民が迷う。そうなれば国は滅んでいく。肝に銘じなさい」
「はい」
「しかし今回、遅かったとは言えエレノアは自分で殻を破り真実を口にした。これからの成長を期待している」
「ありがとうございます。精進いたします」
娘には少し甘いシュナイゼル。
バーバラが退室してからその発端となったエレノアを睨んでいるロザリィの事も目を瞑る。
王族はただ清純であればいい訳ではない。時には狡賢く騙し、蹴落とさなければいけない。
しかし気づかれてはいけない。
今回の事で子供達に学びがあり、成長する事を願うばかりだ。
ひと段落ついた所で、図った様にカインがニコラスを連れて戻ってきた。
「終わったか?」
「お前…」
カインの様子にカインが面倒くさいと感じる話を回避する為に話が終わるのをドアの前で待っていたのだろうと想像できた。
シュナイゼルはため息を吐いた。
しかし、このため息はいつものやれやれと言った物だ。
カインはこんなだが、帝国に必要な最強騎士であるし、知略や政治へのアドバイスも的確でシュナイゼルの右腕である。
キチンとしなければいけない所と、サボる所の区別もついている。
その為、シュナイゼルはやれやれとため息を吐くのだ。
ムツキ達を待たせているが、もう一つ話し合う事がある。
その為にニコラスも呼んだのだ。
さて、もう一つの話し合いが始まる。
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