第13話 意識のあった人の話
私は、その日死ぬのだと覚悟を決めた。
視察の旅路の帰り道、後もう少しで帝都と言う所で魔物に襲われてしまった。
襲ってきたのはよりにもよって人型の魔物で、護衛についてくれている騎士達では相手にならないだろう。
気づいた時には馬車を囲まれていたのだから、魔物達の知能はそれなりに高いと推察できる。
騎士達が応戦している間に御者が隙を付いて逃げ出そうと馬車を走らせるが、それも叶わず、馬車は魔物に片側の車輪を壊されて止まってしまった。馬も同時にこけてしまい立ち上がれなそうだ。
私もその衝撃に体を打ち付けられてしまい、体を痛めてしまった。
一緒に乗っていた世話係のユリーネも気を失っている様だ。
でも、その方がいいのかも知れない。
今から、魔物に襲われる恐怖に比べれば、気を失っているうちに死んだ方がいい。
そんな考えを巡らせているとゴトンと馬車に何かがぶつかる音が聞こえて外が静かになった。
これは外の護衛はやられてしまったのだろう。
せめて、魔物に殺される間に、みっともなく泣き叫ぶのだけは避けよう。
そう、私は腹を括った。
その時、外から知らない人の声が聞こえてきた。
「中の人、無事ですか?」
その声に私は返事をしなかった。
頭のいい魔物の中には人語を喋り、人を誘い出す魔物も居ると聞いた事があったからだ。
「お前達の相手は俺だよ。分かるか?豚野郎」
続いて聞こえた声に反応して魔物が怒ったように鳴いている。
あの声は、私達を助けにきてくれた人?
そんな考えが浮かんでくるが、怖くて外を確認する事はできなかった。
そうしている間に、外の喧騒はなりを顰め、魔物の声は聞こえなくなっていった。
助かったの?
私がそう考えた時、馬車のドアノブがバキっと音を立てて壊れた。
その音に反応してユリーネが「うっ」と言って目を覚ました。
外からも、ガシャガシャと、鎧の擦れる音が聞こえてくる。
そうしている内に、ユリーネが飛び起きると私を掴んで「大丈夫ですか!エレノア様!」と私に傷がないか確認している。
次に外から魔物の声が聞こえなくなったのと、鎧の音を聞いて、ユーリネは扉を勢いよく開けて外を確認した。
私も外を覗けば息絶えた魔物の群れと、それを呆然と見つめる騎士が1人いた。
彼も、何が起こったのか分からないのだろう。
私は、辺りを見回して先程の人がいないか見回してみるが、人の姿は見えない。
…いや、遠くに黒い髪の人物が走る人影が見えるが、まさかこの短時間であそこまで走ったのだろうか?
そんな事を思っている間にユリーネの大声が聞こえた。
「良くやりました!貴方は英雄です!魔物からエレノア様を守り、目立った傷も無い!
陛下にお褒めの言葉も頂けるでしょう!」
「え、いや、俺は___」
「謙遜する必要はありません!隠す事は美徳になりませんよ!」
「え、これ、俺がやったんでしょうか?」
「そうに決まっています!周りを見なさい、皆がだらし無く気絶する中貴方だけがこうして立っているじゃありませんか!」
「そう?そうか。俺が、倒したのか」
あ、これはダメです。ユリーネの言葉に騎士が流されそうになっています。
「ユリーネ。この方は違います。他に助けてくれた方が___」
「エレノア様、助けて頂いたら感謝しなければいけません。それを怠れば誰にも力を貸してもらえなくなりますよ!」
ユリーネには、今見ていることが全てで、あの黒髪の君の話をしても、信じてもらえません。
そうしている内に、他の騎士や御者も目を覚まし、持ち上げられた騎士は自分がやったのだと信じ込み、それをユリーネも肯定する物だから、騎士達は盛り上がり、御者も目を輝かせている。
私の言葉は端にやられたままに、魔物を回収して帝都へと凱旋するのだった。
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