第3話 想像と違う冒険者

城下町をフラフラと歩いて、定番とも言える冒険者ギルドへとやって来た。

なぜかと言うと俺は今、金がないだからだ。

詐欺師だと追い出された俺には国からの追放の定番である手切金さえも貰っていない。

全くの無一文だ。因みに日本円がここで使えないのは確認した。


しかし、異世界で自由気ままな冒険者生活と言うのもいい響きだ。

ブラックな仕事を朝から晩まで働かなくてもいい!


夢を膨らませつつ、俺は扉を開けて中に入った。

ギルドの中は物語を読んで勝手にイメージしていた雰囲気とは違い、汗臭くも、小汚くもなく飲み屋が中にあったり、昼間から飲んでる冒険者が居たりもしない。勿論、酒臭さもしない。

綺麗で清潔な広いエントランスに、受付は、ここは想像通りだが、美人の受付嬢が控えている。

1番左の窓口に、登録カウンターと表記があったので、そちらの方へとむかうと、受付嬢に向かって話しかけた。


「はじめまして。新規のご登録でそろしいですか?それとも移転登録でしょうか?」


笑顔で対応してくれる受付嬢が眩しい。

こんな美人と話したことがないから俺は緊張してしまう。

俺は挙動不審に見えないように気合いを入れて「新規登録でお願いします」と答えた。


「はい。それでは冒険者登録資格証明書と、学校の卒業証明を提示願います」


「え、卒業証明?資格証明書?」


「はい。お待ちではございませんか?」


「すみません。田舎から出てきたばかりでして、よくわからないのですが…」


「なるほど。では、簡単に説明させていただきます。

冒険者になるには、高等学校を卒業後、冒険者育成専門学校へ進んでいただきまして、そちらを卒業された方のみがなることができる専門職となっております。

高ランクを目指す方ですと、その上の特殊専科も卒業する必要がございます」


なんと、冒険者と言うのは勝手に誰でもなれる職業だと思っていたし、粗暴な冒険者に絡まれるのもテンプレートの一つだと思っていた。

しかし、この世界ではしっかりとルールが決められ、冒険者は専門職になっている様だ。

しかし、高等学校の後に専門学校か。なんか、えらい現実じみているな。


「ですので、お客様は資格証明と卒業証明がない為に冒険者登録はできません。

高等学校は卒業されていますでしょうか?もしよろしければ、王都の専門学校を紹介されて頂きます。

紹介と言っても、受験が有利になるわけでは無く、案内のみになるのですが、いかがでしょうか?」


「申し訳ない。高等学校も卒業していないのです。勝手な思い込みで、こちらに来れば仕事を貰えるかと思いうかがったのですが、世間知らずで申し訳ない」


「いえ、そう言う方はたまにいらっしゃいます。お客様は受け答えも丁寧ですし、学歴のある方かと思い、話を急いでしまいました。申し訳ありません。

しかし、高等学校は16の時に受験しないと入学できませんので冒険者になるのは厳しいかと思います。お力になれずに申し訳ありません」


「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」


そう言って帰ろうとする俺に、受付嬢は待ったをかけた。


「お待ちください。先ほど、仕事を探しているとおっしゃいましたが、お金を稼ぐだけでしたら、街の外でとび兎などを狩って肉屋に持ち込めば買い取ってもらえます。薬草などを見分けられるのであれば薬草などを薬屋へ持ち込めば買取してもらえます。

街の外へ出ますので少々危険かと思いますが、この街まで来られたのでしたら大丈夫かと思います。

定職ではありませんが、参考になればと思います」


「ありがとうございます。頑張ってみます」


俺は今度こそ頭を下げてギルドを出た。


しかし、よく考えてみればステータスもダメダメなんだったか。


-ムツキ-level1


HP2

MP2

攻撃力2

防御力2

魔法攻撃力2

魔法防御力2

スキル:ねずみ算/マルチ


俺は自分のステータスを見て悲しくなった。

とりあえず、異世界お得意の鑑定スキルなんかもないから野草と薬草なんて見分けられるわけないしな。


「あ、そういえば」


俺は、ふと自分が持っていたビニール袋を見た。

異世界物の定番として向こうの世界のものが高く売れたりして…

俺は、少ない希望に賭けて、道具屋を探すのだった。


____道具屋を見つけて中へと入る。

少しホッとしたのは先ほどの冒険者ギルドとは違い、この道具屋はいい意味で思い描いた道具屋の内装。ファンタジーの世界に出てきそうな道具屋の作りだった。

カウンターにいる人物に話しかけて、自分の目的を話した。

持ち込みの商品を買って欲しいと言って栄養剤の瓶を5つカウンターへと並べた。


「中には滋養強壮の効果のある飲み物が瓶詰めにして入っております」


緊張して、リモートのプレゼンの様に敬語になってしまう俺。

店員のおっさんは瓶を一つ取るとじっくりと見つめた。

そして、ほうと唸る


「この色の付いた瓶は日光で中のものが劣化するのを防ぐためか。長期保存を考えているとは、珍しいな。

効果は…ほう。そこらで売ってる物の3倍の効果がある。

小僧、一つ飲んでみても良いか?いや、とりあえず買い取ろう。この1瓶、銀貨1枚でどうだ?通常の滋養強壮剤が銅貨3枚なのを思えば破格だろう」


店員のおっさんはそう言って俺の方を見た。

小僧って、俺はもう26なんだけど…これが日本人が若く見られるってやつか?


そう思いながら俺はゆっくりと頷いた。


「よし、それじゃ飲んでみるか。

ん?ものすごい硬いな」


店員のおっさんはキャップの部分を捻らずに引き抜こうとしている。それでは硬いはずである。

俺は慌てて開封の仕方を教えて捻って見せた。


「なるほど、この溝の構造か。これを作った職人はすげえな。小僧の知り合いか?」


俺は違うと首を横に振ると、店員のおっさんは「まあいい」といってグイッと飲み干した。


「少しクセはあるが、普通の物よりも飲みやすい。よし、全て買い取ろう」


そして、店員のおっさんは銀貨を5枚手渡しで俺は受け取った。


_________ピコン。スキル:マルチの効果によりリフドンのスキル:鑑定のスキルを取得しました




「え?」


道具屋に、そんな、俺の間抜けな声が響いた。



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