うどん・学園祭・輪廻転生

「ねえ。輪廻転生って信じてる?」


 拭き上げる風が彼女の長い髪とスカートを揺らしている。それが柔らかそうだなとか、バレたら気色悪いと思われそうで生まれた感情を押し込める。


「突然なんだよ。こんな屋上に忍び込む真似までして。良くないこと考えてるわけじゃないだろ?」


 そんなフェンスに近づいたりなんかして。飛び降りたりしないだろうなと、余計な心配まで生まれる。


「私ね。信じてるんだ。次の人生はきっと楽しいものになるって」

「なんだよ。その今の人生が楽しくないみたいな言い方して」


 そんなわけ無いじゃん。だって今は学園祭の真っ只中だ。屋上にいたって校庭から聞こえる楽しそうな声。さっきまであそこで一緒に笑ってたんだ。


「楽しくないわけじゃないよ。でも、物足りないの。なんていうのかな。この人生が偽物みたいな気がしてるって言うのかな。笑ってるのに、この笑いは作り物なんじゃないかって。ふとした瞬間にそう思うの」


 だから、急に屋上に移動したって言うのか。


「それで、どうしたいんだ。こんなところで。なにかあるわけでもないだろ。立ち入り禁止の屋上になんて」


 その言葉に彼女は一瞬だけ笑った気がした。でも気の所為だったとすぐに思い返すくらいには真顔に戻っている。知っている彼女じゃないみたいな感覚に襲われる。


「うん。なんとなくだよ。なんとなく。ここに来れば来世の姿でも想像できるかもって思っただけ」

「それで。なにか想像できたのかよ」


 屋上のフェンスから外を向いていた彼女がヒラリと振り返る。それだけで鼓動が速くなる。


「なーんにも。もしかして来世なんてないのかもね」


 寂しそうな顔。なんとかしなくちゃって焦燥感だけが込み上げてくる。必死に記憶をひねり出す。転生? 来世? なんかそんなコマーシャルを見た覚えがあるぞ。


「ほ。ほらっ。なんかうどんに生まれ変わるコマーシャルもあったくらいだし、きっとあるよ来世! なっ?」


 キョトンとしたあと、何かを堪えるように腹を抱えだした。


「どうしたんだよ。なんか変なこと言ったか?」

「言ったよ。自覚ないのヤバいって。はぁ。面白いねキミ」


 よく分からないけれど笑っている。


「ねえ」


 スッと近づかれる。びっくりして少したじたじしてしまう。


「もし来世でもこうやって会えるかな?」


 その問いになんて返したのか覚えていない。気がついたら彼女はいなくて。屋上に一人きり。


 確か屋台でうどん売ってる所あったよな。そう屋上をあとにした。

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