GUCCI・特殊工作員・蚊
「だからー。絶対に特殊工作員がいるんだってばぁ。学校に秘密があって夜な夜なだれかが何かを探してるんだって!」
そう熱弁するのはオカルト研究会の会長だ。なにやら、教室の物の配置が毎日のようにちょっとズレているらしい。言われてから気にしたけれど、そうなのかもしれないなぁってレベル。黒板消しだったり、教壇だったり、誰かの机だったり。
「それは分かったけどさ」なにも分かっていないけれど、そういうことにしないと話が進まないのだ。
取ってつけたような言葉。それでもオカ研の会長は同士を見つけたかのように深くうなずいている。それも何度も。
「なんのために、その特殊工作員がこの学校に用があるって言うんだよ」
「知らないわよ。そんなの。捕まえて取材するしかないっしょ」
なにやら不穏な言葉も聞こえた気がするがそこは触らないでおこう。
「という訳だから。今夜、十時頃、裏の入口に集合だからね」
「集合? なんの話だ」
オカ研の会長は何故か得意気な表情だ。
「そろそろ事件の臭いがしてきたのよね。だからその正体を突き止めようとしているわけよ」
「だったら、なんで俺が。だいたい、特殊工作員ってオカルト研究会の範囲なのか?」
「正体不明なものであればオカ研の範囲よ。でもまあ、GUCCIの財布がなくなったとか言う話も聞くし、もしかしたらミス研の担当かもしれないけどね」
「……GUCCIの財布って生徒がそんなもの学校に持ってくるなよ」
ん? それにしては夜中だろう? 普通持ち帰るんじゃないのか。
「それは、先生が誰かへのプレゼントを職員室で保管してたってやつよ。どういうつもりかは知らないけど」
続きは知りたくなかった。その先生を前にするたびにその情報がフラッシュバックしてしまいそうだったから。
「まあ、でも。俺には関係ないね」
「おっと。そうは問屋が卸さないのよ。ミス研の会長さん?」
確かにミステリーといえばミステリーなのかもしれない。でも、些細な出来事しか起きていない。そこに首を突っ込むのは物語の中の人たちだけだ。実際の出来事に首を突っ込みたくないミス研だっているんだ。
「とっておきのネタの提供と、部費の分配の件も考えてあげていいから」
くっ。痛い所付いてくる。ミス研といいながら蔵書が揃っていなくて必要最低限のミステリ小説を揃えていたら部費が当然のように足りなくなった。それを予算員会で揉めたことを覚えているのだ。
オカ研は余裕あるって言うのかよ。
「分かったが、なにかするわけじゃないぞ。俺に何かを期待するなよ」
「よしっ。決まりね。建物内に入れるか分からないから虫除けスプレー持ってきてね。この前、蚊にたくさん刺されてそれどころじゃなかったんだから」
初めてじゃないのかよ。
「あ、ああ。分かった。準備しておく」
明日から夏休みだと言うのに。なんだか、慌ただしい夏になりそうな予感がした。
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