右向け右・星・ガラスペン 『星夜』

「右向け右!」

 最近ハマっているガラスペンの書き心地を試すために教室に残っていたのが気が付けばみんな帰ってしまったみたいだ。シャッシャっと小気味よい音だけが響いていたのに。そう愚痴りたくもなるくらいに友人の声は大きかった。

 冬の日の放課後はあっという間に暗くなってしまった。

 それにしても右を向けとはどういうことだろう。言葉にしたがって右を向いてみる。

 何の変哲もない廊下へと隔たれる窓ガラス。電気が点いているのが、ぼんやりとすりガラス越しに見て取れる。

「なにもないじゃない」

「あっ。間違えた。私から見て右向け右だわそれ」

 おっちょこちょいなことがあるのはわかっているのだけれど、そこまで酷いとは思わなかった。

「じゃあ。なに。左向けってこと?」

 左を向いた。明るさに慣れた目だ。闇に紛れて住宅の明かりだけが見えるだけだ。

「上。上」

 友人に促されるまま空を見上げる。ぼんやりと暗い空の中に光が見えるのは星たちだろう。

「もうちょっとそのままね」

 従い続けているのはなんでだろう。彼女が友人だからか。

「あっ。ほらっ」

 あー。なんとなくだ。目が慣れる前だ。光が落ちていったのはわかったのだけれどそれがなにかは分からなかった。

「あれ、流れ星だよ」

「流星群? そんなに降るもの?」

「そう。キミが夢中になっていたから気づかなかったもんね。でも、その線とそっくり」

 ガラスペンで書いた彼女の名前はその空に浮かんでいるものと同じ名前。彼女はそれを見てほしかったんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る