第52話「二人の変化」

「ねえ達也たつやのこと好きだったって気づいてた?」

「まあね、なんとなくわかってはいたよ」

「やっぱそうだよね……」


 おかしいと思ったんだよね。

 付き合い始めてすぐのころは若干抵抗されたりもしたけど、だんだんとなに言っても受け入れてくれるようになったし。

 諦めたのかなと思ったときもあったけど、そうじゃなかったんだね。


「好かれてるのか、かつがれてるのかいまいち自信なかったけどね」

「それなのに、ずっと付き合っててくれたの?」

「好きになっちゃったからね」


 達也が私のことが好き?

 そんなまさか。


「信じられないって顔してるけど」

「するよ……、ずっとわがままな彼女だったし」

「別にあのくらいなら普通じゃない? あかねに『私以外の女を視線に入れないで』とか言われたことないしさ」

「そう、だね……」


 ごめんね達也、ほかの人と話してるのが嫌だったから実は毎回ばれないように邪魔してたんだよ。

 さすがに割って入るとかはしなかったけど、相手からしか見えない位置で話すことありますよみたいな雰囲気出したりして。


「まあもうちょっとわがまま言ってくれても大丈夫だし、もし不満があるなら溜まる前に言ってよ」

「私ほんとわがままだよ、もしかしたらそのうち『私以外の女を視線に入れないで』とか言っちゃうかもしれない。達也のこと狙ってる人いっぱいいるし」

「俺を狙ってる人なんかいないと思うけどな、すでに友達一杯で恋人候補何人もいますみたいな人もいるし」


 達也だって私がいなかったらそうなってたよ。

 彼女がいるってわかってても寄ってくる人がたくさんいたんだし。

 いくら心ではそう思っていても、そんなことが口に出せるわけがなく、ただ愛想笑いをするしかできなかった。


「そうだね……。そういう人も何人かいたね」

「でしょ。俺はそういう人生満喫してます、みたいな側の人間じゃないから」

「よかった……」


 誰も寄せ付けたくない、私以外近づかないでほしい。

 どうしたらずっと私だけを見てくれるんだろうか。

 私の彼氏って知らしめたい。

 ちょっとでも私の痕跡を残したい。

 達也が的外れな認識の内はちゃんと私がアピールしないと。

 まるで現状がわかってない達也の話を聞いていると、自分の中から沸々と今まで考えもしなかったどす黒くねっとりとした感情が湧き上がってくるのを感じた。


「ねえ達也、また抱きついてもいい?」

「いいよ」


 そういうと達也はまるで迎え入れるかのように大きく手を広げてきた。

 彼の胸に飛び込むと、大好きだよ、と聞こえないようにそっとつぶやく。


「ねえ私ずっと抱きつくの我慢してたんだよ。知ってた?」

「知ってる、手握ってるときすごい物足りなそうだった」


 全部知ってましたよという感じでそう言うとおかしそうに笑った。


「その時抱きついたら拒否した?」

「しないと思うよ、茜が抱きつきたがってたの俺が好きになった後だし」

「なら気しないでやっちゃえばよかった。好きじゃない人に体触られるのいやかなって思ってたんだから」

「ならこれから気にしないでしていいよ。もう付き合ってるのは広まってるんだし」


 そういうと、少し息苦しいくらい強く抱きしめてきた。

 ああ、達也も抱きつきたかったのかな。


「ねえ明日どこか行く?」

「二人きりでいいなら行きたい」


 今までは付き合ってるって広める目的でデートしていたから、二人きりで出かけることなんてほぼなかった。

 それに二人きりになれても、見せる用の写真撮ったりで全くといっていいほど楽しめなかった。

 だから自分たちのために遊びに行きたい。


「いいよ、正直誰かと一緒にデートってすごい疲れたし、俺も二人きりがいい」

「よかったそう言ってくれて」


 初めのうちは休みを合わせてどこか遊びに行ったりもした。

 そのうち段々と達也の服や教科書が私の部屋に来るようになった。

 独り暮らし始めた時は想像しなかったけど、男物の服を干すことになるなんて。


 しばらくして、夜になっても達也が帰らない日が増えてきた。

 大学が終わった私の部屋に着て、翌日また大学に行く。

 たまに用事があるとかで朝六時ぐらいに帰ることもあったけど、夜はずっと一緒だった。

 その時はこのまま一生達也と過ごすものだと思っていた。


 ただ二年間という時間が私たちの関係を徐々に変化させてしまった。

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