第42話「達也の憂鬱」
「ほら
「初めまして、
茜の姉と紹介された人に深々と頭を下げる。
一体どんな顔をしているのだろうかと顔を見ようとするが黒い
誰だ、この人?
それにここはどこだ。
黒い靄はお姉さんの顔だけでは足元にも広がっている。
真っ黒空間のなか二人だけがボーっと白く浮き上がってた。
スーツケースを受け取るのは明日のはずだし。
夢か?
「こいつが私の茜を弄んだのか」
「そうずっと騙されてたの、酷いよね」
姉と言われた人物がそう言うと、すぐさま茜は同調した。
ちがうだましてなんか。
必死に声を出そうとするが、金魚のように口を動かすだけで全く声が出ない。
「だから体か金目当てって言ったろ? 私のところに戻っておいて」
「ごめんね、お姉ちゃん。ずっと一緒に居るから」
まってくれ、茜!
「私しつこい人嫌い、これからはお姉ちゃんに
そう言い残すと溶けるように茜と姉は消えていった。
「だから言ったでしょ、一度振った女はまた振るって」
なんで冬木がここに!
脳みそを直接揺さぶるかのような声が頭の中に響いてくる。
「わかってるんでしょ、あそこで言い
「あの女はおもちゃを他人に取られるのが嫌で好きな風を装ってるだけだよ」
「再会してから一度でも好きって言われたことある」
学校、部屋、海岸、電車の中と目まぐるしく変わる風景の中、コピペしたような笑顔の冬木がかわるがわる現れ、囁いていく。
「妹さんが連れてこなければ、もうあの女と関わる気なんかなかったくせに」
「飼うかどうかも全部あの女の考えでしょ? 達也クンはあの女が死ねって言ったら死ぬの?」
「自分で考えなくていいのは楽だよね、けど私ならもっと幸せにしてあげるのに」
やめろ!
お前なんかに何がわかる!
「わかるよ、私のすべてハ君だモノ」
「そう、だ力ra。だい゛Je☆6#Σはb@∀:――」
突然冬木の声が合成音声のようなものに変わると、まるで風船のように内側からぼこぼこと膨れていった。
なんだよ、お前。
誰なんだよ!
どんどんと人ならざる者に変わっていく冬木を見ると、一目散に走り出す。
どこへ行けばいいかわからない。
どうすれば覚められるかもわからない。
ただあの得体の知れないものを見ると、体が逃げろと叫び出した。
背後からは相変わらず合成音声のような声でぶつぶつとなにか言っている。
誰か、助けてくれ!
迫りくる虚無に飲み込まれないよう、体を光よりも速く動かす。
黒一色だった景色が、紫、青、緑と移り変わっていく中、どこからか声がした。
「――や」
「たつ――や」
声の出所を探すと、真っ白な空間が広がっていた。
あそこだ!
本能的な確信のもと、その空間に飛び込むと、木漏れ日のようにやさしい声が聞こえてきた。
「達也」
「あかね?」
「どうしたのずっと苦しそうだったけど?」
あれは夢か?
冷や汗でべた付く手のひらを見ていると、手ですくった砂のようにさっきまでの記憶が一つまた一つとこぼれていく気がした。
「大丈夫、はなず」
「大丈夫な顔してないよ」
そう言って茜のスマホに映る自分を見るととても寝起きとは思えないほどげっそりとしていた。
「お姉ちゃんと会うのが辛いなら言って。私一人で説得するから」
「それはダメだ!」
なぜかはわからないが、茜と姉を二人きりで会わせちゃいけない。
そんな気がした。
「なら無理しないでね」
消え入りそうなそうな声でそう言うと、じっと見つめてきた。
「無理してるわけじゃないから平気」
「ならいいんだけどね」
そう不安そうな笑顔を向けてくる茜を見ると、なぜか無性に触れたくなった。
ゆっくりと茜の手に近づくが、突如手を払いのけられる気がした。
茜に拒絶されたことは振られたとき以外無いはずなのに、なぜこんなことを思うんだろうか。
不思議そうな顔でこちらを見てくる茜に、覚悟を決めて言った。
「ねえ抱きついていい?」
「いいよ」
そう言うと茜は全身で俺をことを包み込んできた。
寝汗を書いたのだろうか、茜と柔軟剤の混じった香りが脳に届く。
そこはかとない安心感を覚えていると、そっと耳元で
「大丈夫、ずっとそばにいるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます