第27話「達也とカクテル」

「ごめんね私から誘ったのに」

「気にしてない」


 やっぱりさっき元カノに会ったってのは言わないほうがいいよね。

 未練しかないだろうし、なるべくほかの女の話はしたくないし。


「あ、コンビニ」


 達也たつやクンの目線の先を見ると、確かにコンビニがあった。


「あそこでなにか買っていこうか」


 入り口でサラリーマンとすれ違うと視線を感じた。

 やっぱ不釣り合いとか思われてるのかな。

 達也クンかっこいいもんね。


「ねえうまい酒ってあるの?」


 ぼーっとショーケースを眺めながら独り言のように尋ねてきた。


「おいしいお酒ね……」


 私もそんなに飲む方じゃないからな。

 基本苦いしあんまり教えられる気がしない。

 やっぱカクテルとかかな?

 カルーアミルクもカクテルだったし。


「達也クンはなにか飲みたいのとかあるの?」

「これかな」


 まるで前から飲むのを決めていたかのように強めのエナジードリンクを迷わず取り出した。

 確かカフェインが強すぎて問題になっていたやつだ。

 それを何本もためらいなくカゴに放り込む。


「ねえそんなに飲んだら死んじゃうよ」

「大丈夫全部一気に飲むわけじゃない。忘れるまで眠りたくないだけ……」


 眠りたくないって……。


「なんか昨日さ、全然眠れなかったんだよね。夢の中であかねに会って手を伸ばそうとしたらなにも掴んでないの……。それだったらずっと起きてたほうが気が楽かなって」


 そう話す彼はとても悲しい顔をしていた。


「もし眠れないなら私に言ってよ。疲れ切って自然と寝落ちしちゃうまで話し相手になるから」

「大丈夫だよ、これからは独りに慣れなきゃいけないし、自分でどうにかする」

「なら今日だけは一緒に起きてるから、まだ慣れてないんだから無理しちゃだめだよ」

「ありがとう」


 そうだ、なんかエナジードリンクをおいしく飲めるカクテルとかないのかな。


『自宅 カクテル エナジードリンク』


 適当なワードで検索しただけなのに結構な数のページが出てきた。

 さすが情報化社会だ。

 へー、蒸留酒をエナジードリンクで割るっていうのがあるんだ。


「ねー知ってる? こんなのあるんだよ」

「ん-どれ?」


 そう言って画面を見せると、肩と肩がくっつくぐらい近づいてきた。

 なんか付き合ってるみたいでドキドキしちゃうな……。

 大丈夫から心臓の音聞こえてないといいけど。

 せっかく彼の顔が近くにあると言うのに、店内BGMに紛れて聞こえてくる彼の呼吸音のせいでまともに見ることができなかった。


 震える指でスクロールすると、何やら不穏な文が出てきた。


 ――――――――


 酒の味が消え非常に飲みやすい。

 脳がとろけ、心臓のビートを楽しみたい人におすすめ!

 最期の一杯になること間違いなし。


 ――――――――


 あーこれは見なかったことにした方がいいかな……。


「蒸留酒って確か焼酎とかのことだよな」


 画面を閉じるより早く、ケースの中を物色し始めた。


「ねえ死んじゃうって書いてるじゃん」

「天にも昇る美味さってのを比喩的に伝えてるだけでしょ。大丈夫死なないよ」


 そう言う彼の眼は全く笑っておらず、あの文の真意を理解しているのが容易よういにわかった。


「ならさ私がカクテル作るからそれじゃだめかな?」


 あんな危険なのを飲まれるくらいならそれ以外のカクテルにはまってくれた方がいい……。


「ほら結構お家で作れるカクテルってあるみたいだよ」

「へ―オレンジジュースとかでも作れるんだ」

「だからいろんな味試してみよう?」

「わかった」


 コンビニ中を物色するとカクテルの材料になりそうなのは結構見つかった。


「全部で1万2千3百円になります」


 そんなあったかな?


 お酒って意外と高いんだなと思いながらガサガサとバッグの中を漁っていると、「ありがとうございました」と言う店員さんの声が聞こえた。

 いつの間にかレジ袋も消えている。

 当たりをきょろきょろと見回していると、軽く肩を叩かれた。


冬木ふゆき、行こ」

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