第28話「達也と酩酊」
「結構歩いたね」
「そうだね」
二十分ぐらいだろうか。
普段あまり居酒屋などに行かないから予想以上に家まで距離があることに気が付かなかった。
「荷物ありがとう、重くなかった?」
「大丈夫だよ」
「なら氷とかは
受け取ったビニールは腕が抜けると感じるほど重かった。
「こんなのよく持ってたね」
「そこまで重くなかったから」
そういう彼の手のひらには一本の真っ赤な線が入っていた。
あんな食い込んでたのに何も言わなかったんだ……。
やさしいな……。
「のど乾いたでしょ? コップその棚に入ってるから好きに使っていいよ」
「ありがとう」
彼は適当なグラスを持ってくると、袋の中をガサゴソと探し始めた。
「氷ってもう仕舞った?」
「あーうん。出す?」
「もらっていい?」
適当なサイズを何個か入れて返す。
そうだ、グラス自体も冷やしておいた方がいいのかな?
どうしようかと悩んでいると、隣からカシュッという音が聞こえた。
「なに飲むことにしたの?」
「ああ、
私が見せたやつ?
なんだっけ?
グラスは半分ほど黄色い液体で満たされており、近くには口の開いたエナジードリンクが置かれている。
あ、思い出した、死んじゃうやつだ!
心配を
「ダメだって言ったじゃん!」
子供が誤って刃物を持ってしまったかの様に慌ててグラスを取り上げる。
「すこしだけなら大丈夫でしょ」
カシュッとまた別のエナジードリンクを開けると、どこかに隠し持っていたグラスに炭酸が抜けないよう丁寧に注ぐ。
「ちょっと何してるの!」
「そっちは冬木にやるよ、まだ口付けてないし」
「そうじゃなくて!」
小さい子がいる母親は毎日こんな気分を味わっているんだろうか。
取り上げてもすぐまた始める。
気が休まる間が全くなかった。
「今日のお酒は私が作るから……、お願いだから
「なら一口だけ、それならいいでしょ?」
クリスマス前の子供のような目線をこちらに向けてくる。
そんな目で見られたら強く言えないんじゃん。
「わかった、一口だけだからね」
グラスを受け取ると、
「ねえ、一口って言ったじゃん!」
「飲み切るまで口放さなかったんだし、一口でしょ」
へらへらと笑いながらそう言うが、目はすでに据わってしまっていた。
「そんな飲みかたしたら、死んじゃうよ」
「大丈夫だよ」
そう言いながら彼は倒れ込むように寄りかかってきた。
「ちょっと、達也クン!」
まだシャワーすら浴びてないし、心の準備もできてないよ。
そういえば今日の下着ってどんなのだっけ……?
「ねえ冬木……」
「……なに?」
「気持ち悪い……」
抱きしめるような格好でえぐえぐとえずき始めた。
「トイレ行こう、早く!」
気持ち悪いって私のことじゃないよね、体調だよね?
なんて不安を抱えながらなんとかトイレまで運ぶ。
便器を抱えさせると、ゆっくりと背中をさする。
「大丈夫?」
「大丈夫」
どう見てもダメな達也クンは胃の中をひっくり返すかのように全部吐き出す。
「いっぱい飲んだんだしいっぱい吐こう、全部吐けばすっきりできるよ」
ようやく収まったのか、肩で息をしながらじっと便器の中を覗き込んでいた。
「口の中気持ち悪いよね。今お水持ってくるから」
よかったお水も買っておいて。
「ほらこれで口の中きれいしよ」
水を手渡すも、ぶんぶんと頭を振った。
「飲まなくてもいいから、ね。口だけ
飲み口を近づけると、ようやく水に口を付けてくれた。
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