街へ
「……あいつら何やってんだ?」
馬車を操作してた親玉は、少し違和感を覚える。先ほどあいつらは、捕まえた女で遊ぶと言っていた。ならば聞こえてもいいはずだ。あいつらが女を嬲る声や、女の叫び声や喘ぎ声が。
にも関わらず無音、女の叫び声や男の声どころか、物音ひとつしない。あまりにも静かすぎる。
不思議に思った男は、荷台に行くことにした。
「あれ……来ちゃったんだ」
その声と同時に、男の足元……否、男自身の足が凍りつく。
「んー……もう満足したからいいや、あなたはすぐに殺してあげるよ」
その声と同時に、男の意識は暗い、溟い闇に沈んでいき、2度と浮かび上がることはなかった。
◇
出来ればこのままあの男に馬車を操縦させて街に行きたかったが仕方ない。うん、私は悪くない! と、エリスは誰にいうでもなく納得して、一人残った少女の方に体を向ける。
「……」
対して少女は、ひどく怯えるでも逃げ出すでもなく、ただただ無表情で、こちらを穴が空くのではないか? というほどに見つめていた。
「ーー貴女はどうする?」
「……私も殺すの? さっきの人たちみたいに」
無表情で無感情。何もかもがどうでもいいとでもいうような諦めの感情が、少女を支配しているように見えた。だから彼女が望むならその時は苦しみなく殺してあげるつもりだ。
「貴女は死にたいの? それなら殺してあげるけど」
「別に……死にたいわけじゃない。貴女は魔女でしょ? それも高位の。私がいた村では、魔女が英雄として祀られてるの。だから、高位の魔女であるあなたに殺されるのなら、それは本望」
魔女を祀っている村があるときき、エリスは心から驚く。魔女といえば迫害、軽蔑、恐怖の対象であるのだ。子供を叱るときには「怖い魔女が来るぞ」なんて言い聞かせてるということまで聞いたことある。そんな魔女を祀っている村があるなど、彼女には衝撃的で、とても興味をそそるものだった。
「死にたいわけじゃないなら殺さない。ねえ、貴女村に帰るんでしょ? 私も連れて行って?」
エリスは忘れていた。先ほど彼女がどのような表情をしていたのか。
エリスの言葉を聞いた少女は一瞬、悲しそうに、悔しそうに目を伏せ、そして徐に口を開く。
「村は……もうない。国に滅ぼされた。魔女を崇拝してるからだって。生き残りは私だけ」
「……そう、それは悪いことを聞いたわね」
「別に……それよりお願いがある。私は貴女についていきたい。ダメ?」
旅に仲間が増えるというのなら大歓迎だ。ルシフルは何故か来なかったし、一人旅というのも寂しいだろう。エリスは少女のお願いを快く承諾する。
「ん、ありがとう……私はロミナ、ロミナ・エンティータ」
「そう、よろしくね? ロミナ。私はエリス。ただのエリスよ」
「エリス……様?」
「エリスでいいよ。これからよろしくね?」
旅に仲間ができました。
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