第二話 狂う

 ーー七人の魔術師が裏切った。


 街を一人で歩いていると、新聞がばら撒かれそう綴られていた。なんでも、国に所属していた七人の魔女が、それぞれの所属する国に叛旗を翻し、そして一人で滅ぼしたという。

 その知らせを聞き、いつか自分の国もやられるのではないか……と、恐怖を覚えた各国は、魔術師狩りを開始したらしい。幸いエリスはまだ戦いに出たことはなく、どこかの手伝いなども行ったことがないので顔が割れていない。故に、狙われるなどと言うことはない。しかし姉は、母は違う。前線で戦い、そして街のために働いている。つまりは国の魔術師として顔や住まいが割れているのだ。


「戻らないと……!」


 もちろんまだ年も取っていない、実践経験すら無い子供であるエリスが戻ったところで、出来ることなど少ない。それは彼女自身もよく分かっていた。しかし、理屈ではない。何もできなくとも戻らなければならないという思いが彼女の奥底にあり、それがエリスを突き動かした。



「お……かあ……さん……? お姉ちゃん……? なんで……」


 家に戻って見た光景は、六歳の彼女が直視するにはとても厳しい現実だった。

 拳銃で頭を撃ち抜かれた母親と、体を縛られ、頭に銃を突きつけられている姉がいたのだ。


「エリス来ちゃダメっ!!」


 その声が聞こえた直後、耳を劈くような轟音が、辺り一帯に鳴り響いた。


「エ……リス……逃げて……」


 このままでは確実に殺されてしまうであろう妹のため、アリスは魔術を発動させようとする。

 しかし2度目の轟音が、それを許さずにアリスは力無く倒れた。


「あ……あ゛あ゛ああああああ゛あ゛!!」


姉たちを囲んでいた百人を超えるであろう男たちはアリスが完全に事切れたことを確認して、次の狙いをエリスへと定めて囲むようにして近寄ってくる。


「……あはっ……ひあはははは。あはははははは!!」


 それを見たはずのエリスは、後ずさるわけでも怖がるわけでもなく、ただ狂ったように笑うだけであった。

 可哀想だ、と男たちは思った。だが、やらなければならないのだ。悪の芽を摘むために。年も行かないような幼い少女だろうと魔女は皆殺しにしなければならない。そう覚悟を決め、一人の男が銃を構えて照準を合わせたその瞬間

 銃を構えた男が爆ぜた。


「死んだ、死んだ、クヒヒヒヒ……死ね、全員死んじゃえ!」


 それを皮切りに、一人、また一人と体が爆ぜて、己の血で持って地面キャンバスを赤く彩る。爆散して、捩じ切られて、時には崩れて、屈強な数多な男たちが、次々とひとりの幼女を前に事切れていく。


「ふひ……ひゃははは……死んだ、死んだ、死んだ死んだ死んだ。もっとだ、もっともっともっともっと殺してやる」


 彼女の顔は憎しみなら染まるわけでも、怒りを浮かべるわけでもなく、ただ愉悦を滲ませていた。


「ねえ、次は誰から死にたい?」


 恍惚とした表情を浮かべる彼女が、一歩、また一歩と男たちに近寄って行く。その歩みを進めるたび、男は一人ずつ爆ぜていた。


「ひ……た、助け……」


 ほら、また一人。


「ひひっ……あははははっ! みんなみんな死ねっ!!!」


 姉を、母を殺したゴミには相応しい死に方だ。エリスは心からそう思い、この大虐殺を繰り返していく。


 その日、魔女狩りのために駆り出された数百の兵士が死亡しているとされた。死体は誰が誰だか判別すらできないようになっていたと言う。

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