魔女の孤独と復讐
肩こり
序章 幸せは永遠に……
第一話 しあわせな日常
いつも送っている暖かい日常が永遠に続くことはない。家族の死去、新たな門出、理由は様々だろう。エリスがそんな現実を知ったのは齢四歳の頃だった。
「エリス、今日はもう終わりにしなさいな」
「やだ! お姉ちゃんはまだやるんでしょ! わたしももっとやる!」
時は王暦490年、ある魔術師一家の姉妹が、軽めの喧嘩をしていた。
「あたしはいいのよ、まだ魔力に余裕があるんだから。あなたはもう倒れかけじゃない」
エリスは魔術師一家の末っ子である。姉のように偉大な魔法使いになるため、今日も時間を惜しまずに鍛錬を積んでいた。
「エリスにアリス! いつまで鍛練してるの! ご飯だから戻ってらっしゃい!」
もっとやる、もうやめなさい、と言い争っていた二人だったが、すっかり毒気を抜かれたのか「はーい」と一つ返事をして家の中へと戻っていった。
ちなみに姉は既に20を超えるのにも関わらず未だ実家暮らしの未婚だ。その理由の一つとして職業が挙げられる。魔術師は忙しく、その上数が少ないのだ。国の防衛から民間の手伝いまで幅広く仕事を行う。あるときは、重力に関する魔法を使い建築を支援したり、またあるときは水の魔術を使い洗濯物をすぐさま乾かしたりだ。よって、仕事がある日なんていうのは暇がほとんどない。そして休みの日も己を鍛えなければならないため、結婚などしている暇がないのだ。まして家事などをやる余裕すらない。
「お姉ちゃんお姉ちゃん! 今日はどんな話聞かせてくれるの?」
エリスは毎日冒険の話を聞かせてくれる姉が大好きである。ワクワクドキドキする大冒険がまるで目の前で展開されているかの如く話す姉の物語が大好きだった。
「そうねぇ、今日は……魔王軍幹部の一人、鬼神と戦ったお話でもしようかな?」
ーー魔王軍、およそ六年前、突如として出現した、現在人類を脅かす敵である。トップに君臨する魔王と七人の幹部、計八人は全員指名手配されており、高額の賞金がかけられていた。
エリスたち魔法師は、魔王軍と戦うための最大戦力として国に協力しているのだ。そんな魔王軍も現在は幹部残り一名、そして魔王本人のみとなっている。
鬼神にかけられていた賞金はおよそ四億五千万ギルだった。
「すごい! それで? 変身した後はどうなったの!?」
アリスが語る物語もついに佳境へと入り、鬼神を追い詰めたというところまで来ていた。
「その後はね、私の魔術で……どかーん! と一撃で葬りさったのよ!」
「いいなあー、私もはやく戦いたいなぁ……」
話を聞きき続ける内に、エリスの戦いへの憧れは強くなっていった。早く姉のように強くなりたい、早く一人前になって姉と共に戦いたい。その思いから彼女は毎日毎日倒れる寸前まで猛特訓をしてきているのだ。
「そうね、でも……今日はもうやめときなさい。見るからに顔色悪いもの。何事もやりすぎは良くないから」
「やだ! まだやる! 私は強くなりたーー」
「スリープ」
エリスの言葉は最後まで紡がれることなく、アリスが使った魔術によって彼女は眠りに落ちてしまった。
◇
「……ん? あれ? 私寝ちゃってた!?」
次にエリスが目を覚ますと、普段陽気に地を照らす光はすっかりサボりを決め込んでいて、代わりに深い闇が世界を包み込んでいた。深い闇を照らすか細い一筋の月明かりは、どこか頼りなさを感じる。
「お母さん、今何時!? それからお姉ちゃんどこ行った!?」
起きてから少し経ち、完全に意識が覚醒したところで、エリスは姉に何をされたのかを理解した。そして、姉の所在と現在時刻を母に問いただす。勿論、姉の居場所を聞いたのは仕返しをするためである。
「アリスはお仕事に行ったわよ」
お仕事、これが指すのは十中八九冒険、すなわち魔王軍との戦闘だろう。思えば、近々魔王軍との決着をつける、とお姉ちゃんが意気込んでいた。恐らくは今日がその日なのだろう。
「お母さん! お姉ちゃん帰ってきたらさ、またお話、聞かせてくれるかな?」
エリスの中からはすでに眠らされたというか事に対する怒りはなく、次の冒険話へのワクワクに胸を膨らませていた。
「そうねぇ、きっと聞かせてくれるわよ、だからそれは明日の楽しみに取っておいて今日は早く寝たら?」
「はーい。それじゃあおやすみなさい」
明日はどんな話が聞けるんだろう? 楽しみだなぁー、とエリスはワクワクドキドキしながら、その日は寝る前にやることをやってから眠りにつくことにした。
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