学園生活の始まり
第12話 GIRL MEETS BOY
「ハァ…行きたくないなぁ…」
身仕度を整え、玄関迄はやって来たが、そこからの一歩が憂鬱で仕方ない。
「行かないともっと酷い目に合うわよ。」
ついこの間までランドセルを背負って、共に登校(実際のところ、虎春は学校に行っていなかったが…)していた妹も、今日からセーラー服になっている。
兄妹揃って進学、新生活となったのだが、今までとそれ程変わった様子もない虎春に対して、虎千代は、友だちどころか、会話さえ無い中学生活でも無かった憂鬱感、要するに『学校行きたくない。』という感情を抱いたのは初めてだった。
かといって、妹の言う様に、行かない方が酷い目に合うのは確定事項である。
進むも地獄、退くも地獄な状況になかなか一歩が踏み出せない虎千代。
「ッ痛ぁっ!!」
ウジウジと悩む兄に妹が強烈なローキックを入れた。
「どっちにせよ死ぬなら、進んで死ね!!」
そう言って虎春が、折れた左脚を擦る虎千代の背を蹴っ飛ばす。
蹴っ飛ばされた虎千代は、勢いよく吹っ飛び、玄関を突き破った後、タイミングよくスピードを上げて通過するトラックに跳ね飛ばされた。
「ホールインワン、ね。…野球の言葉だったかしら?」
飛んでいく兄を見送りながらそう呟く虎春。
「通学が楽になってよかったじゃない、お兄ちゃん。」
虎春の言葉通り、虎千代の身体は経津主学園の敷地に落ちる。
「ま、近すぎるけどね…」
そう言って壊れた玄関を潜る虎春。
彼女の言葉通り、経津主学園は近くにあり過ぎた。
具体的にいえば、家の垣根を越えた隣は学園であった。
「大丈夫よ、お兄ちゃん。あの悪魔よりおっかないのは存在しないから。」
産まれた時から、ラスボス後の裏ボスの元締みたいな強さの最強生物に育てられてきたのだ。
「一番危険なのは我が家よ。」
遠い目をした虎春は、中学校とは別の方向に歩き出す。
「とりあえずなんか殴りたい。」
そんな言葉を呟きながら。
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空から、少年が降ってきた。
勢いよく地面に叩きつけられた少年は、分厚い校舎の壁に激突した。
一連のダメージだけでも、常人ならグチャグチャの悲惨な死体と化している様なものだった。
だったのだが…
「あーあ…入学早々ボロボロだよ…」
絶対死んでる筈のダメージを受けながら、何事もなかった様に起き上がった少年は、所々に破けや擦れが出来、砂埃が着いた学生服を見て嘆いていた。
「…あれ?あの時の…」
少年は、彼を恐怖の眼差しで見る少女に気付いた。
数週間前、路地裏で出会った少年と少女。
彼の喉を突いたレイピアと、それを無傷で受けた少年。
「あ、貴方、ここの生徒だったの!?」
青ざめて驚愕する少女の言葉に、少年は首を傾げた。
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「何故あの場から逃げたのよっ!!」
路地裏での一戦。勝利を確信していた少女は、従者に不満をぶつけた。
留学生として経津主学園に入学する為に、海を渡って来た少女、フランセット・ラ・フォンテーヌ。
「お言葉ですがお嬢様、アレは人の及ぶ世界から外れた怪物でした。こうして、逃げ切れたことが信じられない程の幸運です。」
そんな不満に対し、淡々と答える従者バベット。
「じゃあ聞くわ…アナタの弾丸は命中した。違う?」
納得していない表情のフランセットは、そう問う。
「ええ、命中しました。間違いなく、中央寄りの左胸部に。」
それに対し、心臓に的中したと明言するバベット。
ますますフランセットの表情が怪訝な者になる。
「じゃあ、生きてるわけ無いじゃない。それなのに、逃げるなんて許されないわ!!」
逃げるというのが一番嫌いなお嬢様は、一層苛立ちを見せて言う。
そんなフランセットに対し、冷静にバベットは、
「私が撃ったのはこの対物ライフルです。」
12.7mmという大口径のライフルを床に置いて、そう答えた。
「これが人にまともに命中した場合、どうなるかご存知ですか?」
逆に問うバベット。
その問いで、フランセットは、あの場で起こった異常性に気付く。
普通なら、上半身は肉片になっている。
「あの男は死んでない…!?」
フランセットの解答に、頷くバベット。
「死んでいないどころか、恐らく無傷です。衣服以外の損傷も、流血も見られませんでした。」
バベットの言葉に、フランセットは青ざめて膝から力が抜けた。
考え無しに突っ込んだ自分の無謀さと、力の差を知り、如何に自分が危険な綱渡りを行ったかを悟る。
「入学前から化け物に会うのね…とんだ修羅の地だわ。」
家柄、資産、共に超一流名家、ラ・フォンテーヌ家の令嬢として育ったフランセットは、経津主のお膝元たる地で、その力量差に初めて挫折を感じていた。
願わくば、二度と会いたくない。
そう思う程に。
その数週間後、二人は再び出会うこととなる。
修羅の地、経津主学園で…
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