第11話 物語が始まる
世界で格差が絶大となった現在、数十年前まで、当然の様に行われていた入学式や、卒業式といった、生徒や保護者が集まる行事は消え去っていた。
理由は簡単。危ないから。
治安が劇的に悪化し、大規模なテロ行為に襲撃、誘拐や拉致。あまりにもリスクが多過ぎて、それらを行うメリットが無くなっていたからだ。
そんなわけで、虎千代は卒業式も無く中学校を卒業した。
周囲の生徒たちがワイワイとしている中、虎千代は、元々友達がいないのもあるが、誰とも会話せず、先のことと、ある一言に頭を悩ませていた。
『来年度から学園の理事長は私だ。』
大魔王こと母、寅華の何気なく言った言葉がずっと引っ掛かっていた。
つまり、僕は、あの大魔王が理事長を務める暴力学園で三年間過ごすことになるということか?
そして、母の言葉が本当なら、あの大魔王がずっと家に居るということだ。
虎千代にとって絶望しかなく、既に心が折れていた。
頭を過ぎった選択肢。
逃げる?
駄目だ、大魔王からは逃げられない。
それは経験済みだ。幼い頃から何度も逃げようとしたが、一度も逃げ切ったことはない。
車に、船に…飛行機に乗ろうとも、陸も、険しい山脈も、荒れ狂う海も、嵐吹き荒れる空も関係なく、走って先回りする大魔王に連れ戻される。
なら、戦うか?
それこそ一番無謀だ。
絶対に勝てないから大魔王なんだ。x
いや、大魔王なんて表現が生温かったのかもしれない。
大邪神…破壊神…どんな言葉でも生温い。
とりあえず、そんな恐怖という言葉の体現者が理事長になり、学園でも、家庭でも顔を合わせるというのが、虎千代にとって最大の負担だった。
「明日世界が滅ばないかなぁ…」
絶望に浸る虎千代は、そんな希望を呟いた。
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「寅華様、こちらが今年の入学者の資料です。」
経津主の本宅、寅華が家族と暮す家の隣、というより、本宅の敷地内に建てられた別邸が寅華の家なのだが、そんな超ご近所にある本宅に赴いた当主である寅華に、彼女の従妹、
寅華の前には、多くの一族が集まっている。
そんな資料をパラパラと捲り、
「要らぬ。」
放り投げ、
「上っ面の、額面上の力など無意味。真の実力こそが力であろう?」
そう一族の者たちに問う。
「「「オォォッ!!」」」
賛同の意を雄叫ぶ者たち。しかし、寅華の目は見逃さない。
「不満がある者がいる様だ…貴様の正を力で示してみせよ。」
その言葉に、スクッ!と立ち上がる数十人。
「時間の無駄だ…纏めて掛かって来い。」
ニタァ…と笑う寅華、一斉に襲いかかる超一流の武闘家たち。
決着は一瞬だった。
明らかに加減した寅華は、武闘家たちの攻撃を全て欠伸しながら無効化し、たった一発、一回拳を振るっただけで歯向かう全てを伸した。
「終わりか…他に物申す者はおるか?」
汗一つ流さず、平伏する者たちに問う寅華。
対して、今し方起こった戦闘、いや、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な蹂躙を見た者たちが汗を掻いていた。
特に、一族の先頭に座る元当主、尊を筆頭にその血族は折れた腕や脚のまま、嬉しそうに寅華を見ていた。
「おらぬようだな…では決まりだ。我が子、虎千代は学園に入学するし、私が学園の理事長だ。」
寅華の宣言に、更に深く平伏する一族たち。
力こそが正義。
そんな経津主の一族にとって、寅華は史上最高の当主であった。
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「して、理事長とは何をするのだ?」
当主とその側近たる者だけが入れる執務室で、寅華は従妹の巳香と再従兄の
「寅華様自ら、お手を煩わせる必要は御座いません。全て私が…」
そう一礼する巳香を、
「雑魚がイキってんじゃねぇぞ、蛇女。オメェより、俺の方が強ぇ。」
玄猪は鼻で笑ってそう言う。
「…殺すぞ、糞野郎。」
「やってみな、蛇女。」
巳香と玄猪が殺気を漏らし向かい合う。
「下らぬ戯れ合いはその辺にしておけ…私は何をすれば良いか聞いておるのだ。」
平坦な物言いだが、そこに含まれた怒気に殺気を漏らしていた二人は背筋を正す。
「い、寅華様のお手を煩わせることは、ありません!!」
「お嬢の為、誠心誠意全力を尽くします!!」
そんな二人の言葉を聞き、寅華は一つ頷き。
「なら帰る。子作りをせねばならぬからな。」
ぐーっ、と一つ大きな伸びをして、寅華は執務室室を出た。
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「殺す…私の寅華様を奪った、あの男を殺す…」
「お嬢ぉーーっ!!何で俺じゃねぇんだぁーーーっ!!」
二人の絶叫が執務室に響く。
「はっ!アンタ如きに寅華様が振り向く訳無いでしょ。」
「ナマ言ってんじゃねぇぞ蛇女!!テメェよりかは、俺の方が遥かにましだ。」
再燃する闘志、二人の経津主の闘いは引き分けで終わる。
「下らない争いをしてる場合じゃないわ…」
「気に入らねぇが、オメェの言う通りだ。」
荒い息を吐きながら、そう言い合う二人。
「「先ずは、
二人の意見が一致した。
「…ックシュ!!」
「風邪か?情けない。」
くしゃみをした潤三と、それに跨がる寅華。
「風邪は
「休ませてくれないんですね…」
潤三は、後に己に迫る危機を知らず、目の前の危機に対応していた。
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