ステージ3 大切なキミへ
それから俺たちは必死の思いでいくつかのステージをクリアしていった。
〈
つまりは、俺とマコちゃんの間で起こる〈逆転レベルアップ〉ってところか。
ただ、このシステムであれば、自分勝手に成長を続けてチームの輪を乱すということも無くなりそうだし、全体が着実に成長していけると考えればそれほど悪いシステムでもないと思い始めていた。だが……
『ふにゃん』【ペシっ】
マコちゃんが敵を倒した。レッドスライムだ。経験値は……たったの5。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」【ザンッ】
俺が敵を倒した。ワイルドボアだ。経験値は……90。
【てれれれってってー】
『やったよキミ! わたしまたレベルアップ。これでレベル10になったよ』
「……俺はまだレベル3なんだけどね。猫ってレベルアップしてもステータスが全然伸びて行かないのか」
個体差はついていた。正直このペースだとラスボスを倒すまでにどれだけの時間がかかるかはわからない。
『ごめんよキミ。わたしがなかなか強くなれなくて』
「……いいんだ。まだ時間はある。少しずつ強くなれるならそれも悪くはない」
『キミはカッコいいこと言うんだね。私が人間だったら惚れちゃってるかも』
「なにをー。マコちゃんこそ……可愛いこと言ってくれるじゃないかー」
そう言って俺はマコちゃん(黒猫)を抱きしめて顔をぐりぐりした。美しい黒い毛並みを逆さに撫でてみたりもした。
『ふにゃー! そーゆーことしちゃダメ―。女の子にはもっと優しくだよ』
「ごめんごめん。つい、マコちゃんが可愛くって」
ミサのことは今すぐにでも助けたい。でも、マコちゃんとの時間も俺にとってかけがえのない大切なものへとなっていた。
【ステージ7 魔境の森窟】
俺たちはステージ7の最奥までやってきていた。このゲームにもちゃんと時間の流れがあって、今はもう日没寸前。辺りを埋めていく闇とオレンジの中に俺たちはいた。
この時点で俺のレベルは8。マコちゃんのレベルは29。しかし、戦闘の主力はやっぱり俺で、マコちゃんはようやくグレムリンを倒せるようになったくらい。ちなみにグレムリンの経験値は18。
「マコちゃん。ここらがステージ最奥だ。近くにボスがいるぞ」
『うんっ! このステージをクリアしたらいよいよファイナルステージだね。キミと一緒ならクリアできるって信じてる』
「あぁ、そうだな。やってやろうぜマコちゃん!」
【グゥォォォォアアアアアア】
その時、大地を震わせる咆哮が辺り一面に鳴り響いた。
「来るぞマコちゃん! ステージボスだ」
森の木々をもゆうに超える巨大な姿をしたボスが目を覚ました。
その姿を見て、俺は驚きを隠せなかった。両の眼から火を放っていて、身体からは毒を撒き散らしている見たことも無いドラゴン。近くを飛び交っていた鳥たちが毒気に当てられてバタバタと地面に落ちていく光景が得体の知れない恐怖を増幅させる。
『キミ! あれは神殺しの巨大な悪竜〈テュポーン〉だよ』
「おいおい、それって俺たちのレベルでどうにかなる相手じゃ――」
【グゥボォオオオオオオオオ】
テュポーンは口からも火のブレスを辺りに吐き散らす。一瞬で森は炎の海と化し、あっという間に逃げ道を見失う。
「クッ……今までの敵とは火力が桁違いだ。こんな化け物が相手ならもっとレベリングしておくべきだった……」
『キミ! 弱音を吐いちゃダメだよ。ラスボスを倒して、ずっと好きだった女の子に今度こそちゃんと伝えるんでしょ』
「マコちゃん、キミがどうしてそれを……」
『安心して。わたしがキミを守るから。でも、最後まで守れなかったのは使い魔失格だね、ごめんよ』
「ちょ……何を考えて……」
『わたしね、キミのおかげでどんどんレベルが上がって、それで条件を満たしたみたいで、実はすっごいアビリティを覚えたの。それを使えばあの化け物だってきっと倒せるんだから』
「やめろ……」
『今までありがとうだよ。キミに使い魔に選んでもらえてわたしは本当に嬉しかったんだから。キミはラスボスを倒して、今度こそちゃんと告白するんだよ』
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『最後にキミの役に立てて嬉しいんだ。じゃあ行ってくるね! 〈
マコちゃんはアビリティを口にすると、炎の海を突っ切ってテュポーンの口の中へと飛び込んでいった。
それからしばらくして、テュポーンは胴体の内側から大爆発を起こし、咆哮はやがて沈黙と化した。
ステージ7、クリア。
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