第4話 予想外の再会

「ねえ、私ってもしかして嫌われているのかしら?」

「えー、いや……そんなことはありませんよ。あははは」



 私の質問にノエルが視線を逸らしまくって答える。その反応で全てを理解した。

 ノエルについていく間に何人かの使用人とすれ違ったのだが、みんながみんな、私の視線からさけるようにさっと逃げるのである。その光景はまるで前世で嫌われている上司と目が合って、難癖をつけられるのを避けていた自分を思い出す。

 まあ、私はかなり我儘だったみたいだしね……リンネの記憶を思い出しても、ご飯がさめているという理由で作り直させたり、服が気に入らないからとメイドに文句を言って怒鳴ったりとろくでもなかった。嫌われて当然だろう。



「でも、あなたは私を避けないのね」

「当たり前じゃないですか……だって、私はリンネ様の専属メイドですから」



 私の言葉にノエルは綺麗な宝石のついた髪飾りを撫でながらはにかむ。あれはたしか気に入らないからという理由で何となくノエルに上げたものだったはずだけど……彼女は本当に大切そうにしているようだ。



「それよりも先代様の植物園につきましたよ」



 屋敷から少し歩いたところにそれはあった。私の身長くらいの柵で囲われた明らかに周りの植物とは違う種類の木々が所狭しと生えている。そこはまるで大きな森の様でである。鳥か何かの泣き声と木々から覗く太陽光がなんとも神秘的である。

 


 こうしてみると圧巻ね……



 ちょっとしたジャングルのような植物園に胸がおどる。でも、、なんでここだけ生えている植物が違うのだろうか?

 その答えはすぐにわかった。



「こちらです、お嬢様。あと、これをどうぞ」

「蒸し暑い……ありがとう。気が利くわね」

「当たり前です。なにせ私はリンネ様の専属メイドですからね」



 金属の扉を一歩またぐとむわっとした暑さが私を襲う。ノエルからハンカチをもらい顔をぬぐう。この柵の中だけ明らかに気温が違うのだ。おそらく大規模な魔道具を使っているのだろう。

 まるで違う国に来たような光景を楽しみながらノエルについていく。そして、5分ほど歩いたところに他の木々に囲まれた、細長い実がなっている木を見つけた



「本当にカカオがあるのね!!」

「流石お嬢様です、一目でわかるとは」



 カカオの実を見つけた私は嬉しさのあまり、カカオの木にかけよった。そして、その実を一つ取って、「開け」と命じると、身が真っ二つに割れていく。

 これが私の使える植物魔法である。触れた植物を意のままに操るのと、植物の成長を早めたり、遅くすることが出来るのである。



「あった……カカオ豆……」



 開いた実から覗く白い果実の中にみえるのはいつぞや前世で見たカカオ豆である。これで私はチョコレートにありつけるのだと感動のあまり涙ぐんでしまう。

 


「お嬢様……?」



 いきなり涙をにじませた。私にノエルは困惑の声をあげる。そりゃあそうよね。カカオの実を割っていきなり泣き始めたんですもの。

 私がどう言い訳をしようかと悩んでいるとノエルがひらめいたとばかりに笑顔を浮かべる。



「まさか、先祖のお告げでしょうか? 五大貴族の中には夢の中でご先祖様から助言を聞いて大成功をした方が何人かいらっしゃいます。かくゆう先代様も馬鈴薯という植物を食用に転用して、飢饉からこの国を救ってくださいましたし……リンネ様にも天啓がきたのですね」

「ええ、そうなの。私もこのカカオを使って『チョコレート』というお菓子を作れとお告げをもらったのよ」

「なるほど……急に植物に興味を持ち始めたり、人当たりがよくなったのもそのおかげですね!! 『ユグドラシル家の腐った枝』とか、『性悪我儘娘』などと陰口をいうやつもいましたが、私はいつか目覚めてくれると信じていましたよ!! それでは、さっそくその『チョコレート』とやらをつくってみましょう。天啓を受けたと奥様にも報告をしなければいけませんね。きっとお喜びになられるはずですよ!!」

「ちょっと待って!!」



 自分の事の様に喜び興奮したように、早口でまくし立てるノエルに罪悪感を感じながらも慌てて止める。というかお告げとかいう設定もあったのね。もしかしたらメインヒロインのアリスさんは受けているのかもしれないが、私のは完全に嘘ぱっちである。

 まさか、「前世の知識です」とは言えないので話をあわせるしかない。



「一応お告げの事は黙っていてくれるかしら。まだ、『チョコレート』づくりが成功するかもわからないから……」



 そう、異世界という事もあり、前世とは色々と勝手が違う所もあるはずだ。もしも、本当にお告げとやらを受けているならば成功するだろうが、私のは前世の知識だ。母をぬか喜びさせるのも申し訳ないし、これ以上自分の評判を落とすのもアレである。



「わかりました。では、その『チョコレート』とやらを作るならば私も手伝いますよ」

「本当? ありがとう。じゃあ、さっそくおねがいしてもいいかしら。このカカオの実から中身を取り出してほしいの。あとは……厨房みたいなところってないかしら? そこで発酵しておきたいのよね……」

「ご安心を。では、こっちに先代様の小屋があるのでそこで作業しましょう」

「うふふ、楽しみね。ノエル手伝ってくれてありがとう」


 

 そうして、私たちは祖父の小屋へでカカオ実からとった果実を置いて発酵させておく。これで今日の作業は終わりである。

 翌日の朝、私はウキウキでノエルの後についていく。ついスキップをしてしまったが、ここには口うるさいお母様はいないので大丈夫だろう……などと思っていると、ここにいるはずの無い人物の目があってしまった。

 え? うそでしょ、なんでここに……



「リンネ様……すっかりお元気そうで何よりです。お見舞いに伺ったらこちらにいると聞いたのですが、お邪魔だったでしょうか?」

「ジュデッカ様……?」



 スキップをしたまま固まる私。ノエルにどうしようと視線を送るが、彼女は私とジュデッカ様を交互に見つめると、なぜかニヤっと笑う姿にイヤな予感を覚える。



「リンネ様、私はお茶の準備をしてきますので、お二人でお待ちください」



 そう言ってお辞儀をすると、さっさと祖父の小屋の厨房へと行ってしまった。関わらないようにしていたのにどうしてこうなるのよ……

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