第5話 ジュデッカの提案
「ここは一体何の施設なのでしょうか? すごい資料ですね……」
「ああ、ここは祖父が珍しい植物を集めていた植物園なんです。外の植物をこの小屋で色々と研究をしていたんですよ」
物珍しそうにあたりを見回しているジュデッカ様の質問に答える。祖父はこの部屋で植物の研究をしていたらく、資料が大量に置いてあるのだが、それが彼の興味を引いたようだ。祖父が亡くなった後は誰も使用していないと言うのに、きっちりと掃除は手入れがされているのは流石五大貴族の使用人である。
ちなみにノエルはお茶を置いたらさっさと「失礼します」と言ってどこかにいってしまい今は二人っきりになってしまった。
「おお、ポテト侯爵の!! あの方はここで救国の食糧である馬鈴薯の研究していたのでしょうか? 両親からあの方がもたらした馬鈴薯で何人もの民衆が救われたと聞いています。素晴らしいですね」
いつもの無表情な顔が嘘のように目を輝かせているジュデッカ様に、私は少し驚いてしまう。すると私の表情から何かを察したのか、気恥しそうに、顔を覆った。
「申し訳ありません。今のは騎士らしくは無かったですね……いつもは意識しているのですが、つい憧れの人物のゆかりのある場所という事で、気を抜いてしまいました。忘れてくださると嬉しいです」
「いえいえ、ジュデッカ様の意外な素顔を見れて楽しかったですよ」
「うう……」
私のフォローに唸る彼を見て前世の妹が「クールな第一印象と間の抜けた素のギャップが萌えなのよ」と力説していたのを思い出す。
確かに可愛いなとは思ったがそれはそれである。彼には悪いがさっさと用事を済まして帰ってもらおう。今の私には目の前のイケメンよりも発酵が終わりチョコレートになるのを待っているカカオたちの方が大事なのだ。
「お見舞いという事でしたが、私はこの通り元気なので気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「そうなのですか? リンネ様が賊に襲われたショックを受けていると聞いてきたのですが……」
ジュデッカ様が怪訝な顔をする。大方、母が変に気を利かせて彼に吹き込んだのかもしれない。そして、責任感が強い彼はわざわざお見舞いにきたのだろう。
もう……お母さまにはイケメンには興味が無いって言っておいたのに……
だが、それなら簡単である。私が元気だとわかれば、彼も安心してアリスさんとフラグを積み重ねることができるだろう。
「みんな大げさなんですよ。この通り怪我もすっかり治りました。それに……賊に襲われた時も、ジュデッカ様が助けに来てくれたので全然怖くありませんでしたよ。今はちょっと気分転換に新しいお菓子を作ろうとしているくらい元気です」
「おもしろいポーズですね。それに……新しいお菓子ですか……? どんなものなのでしょうか?」
私は元気アピールとばかりに力こぶを作る仕草をするとクスっと笑われた。あ、こういうのって乙女ゲーの世界にはなかったみたいね。ちょっと恥ずかしい。
「はい、祖父の研究資料を見つけたので作ってみようと思いまして。そうですね……とても美味しくて、人を笑顔にするお菓子で『チョコレート』というんです」
まさか、前世の記憶を頼りにどうしても食べたいから大好物の「チョコレート」を作るとは言えずにちょっと嘘をつく。祖父は馬鈴薯の他にも色々と発明していたようなので信じてもらえるだろうと思ったのだがなぜか、険しい顔をされてしまった。
「ポテト侯爵の……しかも、人を笑顔に……」
「ジュデッカ様……?」
なぜか様子がおかしくなりぶつぶつとつぶやき始めたジュデッカ様に声をかけると、目を輝かせてこちらを見つめてきた。突然の事でついビクッとしてしまう。あれ、まさか今ので破滅フラグをトリガーを引いちゃったの?
「賊と対峙した時の凛とした態度といい、人を笑顔にする食べ物の研究をしているとは……流石はユグドラシル家の方です。噂なんてあてになりませんね」
「はあ……」
いきなり褒め始めたジュデッカ様に私は何と返せばいいかわからず、つい気の抜けた返事をしてしまう。そんな私の様子を気づかずに彼は引き続き熱い視線でこちらを見つめて言葉を続ける。
「もし、ご迷惑でなければ私にもお手伝いをさせてはもらえないでしょうか?」
「は?」
予想外の提案に再び間の抜けた声をあげてしまった。
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