帰郷・2

 × × ×


 ――そんな経緯で、霧雨篠は有無を言わさず御門くんを同行させた。腹を括ったのか、御門くんはいつかのデート同様に彼氏になりきっている。そんな彼に、母は厳しい追及で畳みかける。

「あなた、憂とどこで知り合ったの?」

「憂さんとは高校の同級生で、二年の時に同じクラスでした」

「そう。憂のどこが好きなの?」

「憂さんは二年の時に学級委員をされていて、立派にクラスを纏めていました。僕はそんな憂さんの直向きさに惹かれて、交際を申し込みました。憂さんも快く了承してくれて、晴れてお付き合いさせていただくことになりました」

 母の質問責めを、御門くんはのらりくらりとやり過ごす。彼の口から飛び出すその殆どが出まかせと解っているけれど、いい加減恥ずかしくなってきた。

「私が無理に憂を呼び戻したことは存じているでしょう? あなたはどうなさるつもり?」

 母の鋭い視線が御門くんを射抜く。一切の誤魔化しを許さない。御門くんも暗澹とした眼差しを母に向けた。逸らさず、真っ直ぐ見据える。

「僕は、何があっても憂さんを支える所存です。憂さんの意志を尊重し、彼女がご実家を継ぎたくないのであればあなたとの対立も辞さない。そのつもりで参りました」

「――よくわかりました」

 根比べに負け、先に視線を外したのは母だった。母は嘆息混じりに静かに告げた。

「覚悟を見せてもらいました。あなたになら憂を任せても大丈夫でしょう」

 母は相好を和らげた。どうやら、第一関門は無事に突破できたようだ。わたしは胸を撫で下ろす。

「今後のことはこれから考えます。二人とも、今日は休んでいきなさい」

 わたし達は揃って頭を下げた。

「はい、ありがとうございます」

「ありがとう、お母さん」

 久しぶりの実家に泊まることになったその夜、母はわたし達の手伝いを断って手料理を振る舞ってくれた。食卓に並べられた料理はどれもわたしの好物ばかり。親子仲が良いつもりはなかったけれど、覚えていてくれたんだ。胸がじんわりとあたたかくなる。

 ファーストコンタクトはあれだけギスギスしていたというのに、御門くんと母はかなり打ち解けた雰囲気で会話を弾ませていた。

 霧雨篠の言いつけ通り内情を探るつもりなのだろう、御門くんは好奇心旺盛な青年を演じながら神社についてそれとなく質問していた。

 対する母の回答は当たり障りのないもので、霧雨篠の推測通り何か重大な秘密が隠されているとは思えない。

 霧雨篠が気にしすぎなだけだったのかも。それにしても、母がわたしの意見を検討してくれてよかった。安堵したからか思考は疎らになり、いつしか深い眠りに落ちていった。

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