対峙の時

「終わりにしようぜ、女吸血鬼!」

 黒フードを目深に被った御門くんは、高らかに叫んだ。囮に使われた憂ちゃんは、なんと真剣を持っているではないか!

「ちょ、ちょっと! いくら正当防衛でも……」

「大丈夫、死んではいないみたい」

 憂ちゃんは心なしか安心した声音で言った。そういう問題なんだろうか……?

 瑛里さんは蹲ったまま、御門くんをキッと睨み上げる。

「おまえ、何故邪魔をするの!? おまえだって、くせに!」

「ああ、そうだな。確かにだよ。オマエが若い女の生き血に執着したように、今のオレには、生憎しか生き方が残されてないモンでね。っつーワケで、後は解るだろ? 弱肉強食、より強い方が残る。散々良い思いをしてもんなぁ? 諦めてオレの養分エサになってくれや」

 ……私には、彼らの会話の意味が解らない。でも、御門くんが瑛里さんを言葉で、力で追い詰めているのは解った。瑛里さんは激昂した。

「嫌、嫌よ! 私の何がいけないの!? 私は間違ってない! なのに、どうして私だけいつもいつもいつも! いつも怒られる、いつも邪魔される! 一番にならなきゃいけないのに。一番でいなきゃいけないのに! どうして、どうしてどうして!? もう、誰も邪魔しないでよおぉ!!」

 髪を振り乱し、ヒステリックに叫ぶ彼女に、いつものお淑やかな美魔女の面影は見当たらない。鬼女――その形容が一番相応しい。私は身震いした。人間はここまで変貌できるものなのか。

 恐らく彼女は温室の中で、無垢に無邪気に残酷に育ったのだろう。自分のために、他者を害することも厭わない環境で大人になってしまった。その点では、彼女もある意味では被害者だ。誰かが途中で彼女を止めていれば。咎めて、糺していれば。こんなことには――


 ――ああ。そうだった。


 私の頭の中で、何かが弾けた。それは、自ら封じていた記憶の蓋。

「もうやめて、!」

「――え?」

 困惑、驚愕が入り混じった視線を全身に浴びる。全て思い出した。どうして忘れてしまっていたのだろう。

 私は――小山華は、加賀美瑛里の血を分けた実の娘だ。

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