或る女・3
お気に入りの赤いヒールを履いて、ふらふらと女は夜の街を彷徨う。視線は虚ろながら、手頃な
そう、お気に入りの靴。プレゼントしてもらったのだ。でも、これは誰に貰ったんだっけ? 思考が定まらぬまま、女は彷徨い歩く。
ふと目に留まったのは、お下げ髪が愛らしい少女。何故だかどうしようもなく魅かれた。あの娘が美味しそうで堪らない。白い首筋は瑞々しい果実のよう。ああ、今すぐ齧りつきたい!
女は引き寄せられるかたちで少女に近づいた。それが、
「ねぇ、アナタとっても美味しそうね。私に血を分けてくれないかしら? ちょうだい、くれ、寄越しなぁぁぁさい!!」
我慢できず、背後から襲い掛かる。お下げ髪を揺らし、振り向いた少女の瞳に怯えはない。こちらを見つめる丸い双眸は、目にした相手の真実を写し出す
「ごめんなさい」
謝罪と共に、腹に衝撃が叩き込まれた。
「あうっ……」
衝撃を受け吹っ飛ばされた女は、無様に地面に転がる。起き上がろうとするも、身体は金縛りにあったようで自由に動かない。ゲッゲッゲ……薄気味悪い笑声が脳髄を、鼓膜を震わせる。
「やっぱサイコーだなぁ、アンタ! 良い囮だよ! この際魔性誑しでも名乗ったらどうだ?」
「え、それはちょっと嫌かな……」
「なに、何なの!?」
何が起きている? 男女の声がする。女の声は先の少女のものだ。では、男は誰だ? いつ現れた? どこにいる? でも、どこかで聞いた覚えがある。確か、サイン会に来ていた若いカップルに似た――
混乱する女の前に、ぬぅと影が現れた。
「なぁ、アンタは盛者必衰の
平家物語を引用し、黒を纏った影は高らかに叫んだ。
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