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「今回の事件でいうと、開発を快く思わなかった人間全員が被害者の死を受けて天罰に違いないと思った時点で祟りは成立してる……ってことですか」
「そういうことだ。陰法師を生み出す人の情念とは全く恐ろしいものだね。キミが山中で遭ったモノは恐らく、そういった負の感情が寄り集まってカタチを成してしまった祟り神もどきの陰法師だろう」
背筋が寒くなる。あの悪意の塊を思い出す。アレは間違いなく憎悪に満ちていた。同じ空間にいるだけで気分が悪くなるほどに。それだけ被害者は多くの人間に怨まれていたし、彼の死は祟りによるものだと人々に強く信じられていたということか。俄かには信じ難いけれど、実際に目の当たりにしてしまった以上は信じるしかない。
しかしそうなると、根本の疑問が再び浮かび上がってくる。
「祟りは後から発生するもので、僕が出会った陰法師とやらも被害者の死後にできた存在なら……被害者はあの陰法師に殺された訳ではない、ってことですか?」
霧雨篠はデスクに肘をつき、アニメの司令官のように顔の前で指を組んだ。霧雨篠のような人間離れした美女がポーズを決めると様になるものだ。
「そうだ。鑑識から報告が上がってね。現場には電流を通すような電化製品こそ残されていたが、それらには人為的に感電させる仕掛けの痕跡はなかったと言う。こうなった以上、原因自体は不幸な事故だったという上層部の判断に異論を差し挟むつもりはない」
確かに、米守鑑識や神崎先輩も事故の線が濃厚だと言っていた。霧雨篠も同じ結論を出したのであれば、僕は黙って頷くしかない。では、何が気掛かりだと言うのか。
「問題はキミが出会った陰法師だ。被害者への怨みの大きさ、更に道真や将門、崇徳院の例を鑑みても、祟りを信じる総意が果たして事故後すぐに一箇所に集積し、あれだけのカタチを成すだろうか?」
まるでその目で見てきたような口振りで言い、霧雨篠の鋭い視線が僕を射抜く。
「事件後の一連の流れにはどこか作為めいたものを感じる。つまり――」
「事故後すぐに大和の死は祟りによるものだ、と意図的に吹聴した輩がいるってことだろ?」
唐突に差し込まれた第三者の声に振り向くと、いつの間に現れたのか、カゲリがまさに影のように立っていたではないか。先の分身とは異なり影のみではないが、薄暗がりがそのまま人の形を取ったのでは、と錯覚してしまうほどに闇に溶け込んでいた。
「カゲリの言う通りだ。おあつらえ向きに、被害者が取り壊した祠は天神――道真を祀ったものだ。落雷事故と結びつけるのは容易だろう」
「で、でも!」僕は叫んだ。「そんなことしたら、自分自身が本当に祟られてしまうかもしれないじゃないですか!」
天神――道真の祟りを意図的に利用したのならば、それこそ後に天罰が返ってきてもおかしくない。リスクを鑑みないところを見るに、被害者の死を事故ではなく祟りのせいにしなければならない理由でもあったのだろうか……?
「事情は本人を問いただしゃ判るだろ。っつーワケで、出掛けんぞ。ジミコシバクン」
カゲリが僕の肩をフランクに叩いた。展開についていけず、僕は慌てて聞き返す。
「出掛けるって、どこに?」
「バーカ、大和建設に決まってんだろ」
あからさまに小馬鹿にした声でカゲリは言う。簡単に言うが、待ってほしい。
「急にお邪魔したら先方の迷惑になるんじゃ……」
歳若いカゲリは知らないかもしれないが、社会には色々と
「こうなると予測して、アポイントメントは取ってあるよ。決着をつけておいで」
まるで未来が見えていたかのような用意周到さに驚く僕をよそに、カゲリは「上〜出来」と喉の奥を震わせ嗤う。
「馬鹿げた祟りをさっさと終わらせようじゃねェか」
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