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◇
「おい、出てこいユーレイ女」
しらゆきちゃんが働くアパレルショップから少し離れた路地に入るなり、御門くんが言った。すかさず出てきた華ちゃんは抗議する。
「ちょっと、私には華って名前があるの! いい加減覚えてよ」
「興味ないね」
にべもなく切り捨てる御門くん。華ちゃんは閉口した。
「何か感じなかったか?」
「え? うーん……特には?」
御門くんはあからさまに顔を顰めた。言外に使えないと言っているようなものだ。どうして彼は他人に優しくしないのだろう。
「警察全体の意見は知らないけど、篠は美に拘りの強い女が怪しいと踏んでる」
だから美容チャンネルで一位を競い合う二人の元にわざわざ足を運んだのか。わたしはようやく合点がいった。だからといって、デートという
「最初の被害者は加賀美としらゆきが共演した番組の観覧の帰りに殺されてるってんで篠は目をつけたみたいだな。で、そこから更に絞り込むために男女ペアで行ってみた。女に対して妙な反応があった方がクロだ」
二人の内、しらゆきちゃんは御門くんに気がある素振りを見せた。そして、加賀美瑛里はというと――
「わたし、加賀美さんの目が怖かった。まるで、獲物を品定めしているみたいで……」
思い出して身震いする。あの視線には覚えがある。いつもわたしを狙ってくるモノの視線だ。
「じゃあ決まりだな。加賀美瑛里がクロだ」
「待ってよ、瑛里さんがそんなことするワケないじゃん!」
華ちゃんが慌てた様子で叫んだ。御門くんは鋭い視線で華ちゃんを問い詰める。
「そう言い切れる理由は?」
「だって、知り合いだもん」
えっ、とわたしは驚いた。しらゆきちゃんだけでなく、加賀美瑛里とも顔見知りとは初耳だ。犯人候補の二人と華ちゃんが知り合いなのは、果たして偶然だろうか?
「瑛里さんは良い人なんだよ。私の憧れなの。あの時だって、お茶に誘ってもらったし」
「あの時って?」
「だから、私が死んだ次の朝――あれ?」
それはおかしい。殺されて幽霊、すなわち陰法師となった彼女の姿は陰気を視認できる人間にしか視えないはずだ。そして、加賀美瑛里の霊感が強いという噂は聞いたことがない……。
黙り込むわたし達を前に、御門くんは静かに口を開いた。
「幽霊みたいな陰気の少ない陰法師が視えるケースには二種類ある。一つは、霊感――微弱な陰気もキャッチできる力――が強い場合。もう一つは、同じくこの世ならざるモノ――すなわち、自身も陰法師である場合」
と、いうことは――
「加賀美が霊感を持たない場合、幽霊を視認できた加賀美瑛里は人ではない、ってことになる」
「で、でも!」わたしは咄嗟に反論した。「お守りは――
「木下さんのお守りだけどさ、人間には反応しないだろ」
わたしは頷いた。十握剣は相手の陰気に比例して刀身を変えるもの。普通の人間など、陰気が少ない相手には反応しない。
「じゃあ、人と、人ならざるモノの境界にいるモノ相手ならどうなる?」
それは――人ならざるモノの方にバランスが傾かない限り、反応しないはず……。
「つまり、そういうこった」
にわかには信じ難いけれど、本当にそうなんだろうか? 華ちゃんは俯いたまま、何も言わなかった。
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