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続いて向かったのは、アパレルショップ。ここにも何かあるんだろうな、と察した。
店に入った御門くんは、レジカウンターで暇そうに頬杖をついている女性店員に真っ直ぐ近づくと、控えめに話し掛けた。
「あのー、しらゆきちゃんですか?」
「え?」店員さんは顔を上げた。「やだー、今オフなんですよ。でも、はい。私がしらゆきちゃんです」
しらゆきちゃんとは、加賀美瑛里と同じくヨーチューンで多くのフォロワーから支持を集めるヨーチューナーだ。主にメイクのやり方やコスメレビュー、簡単な美容法を投稿しており、まだ10代ながら同年代から20代の女性の圧倒的な支持を誇るカリスマインフルエンサーらしい。普段はアパレルショップでバイトをしているという話をテレビで耳にしたが、それがこの店なのだろう。
「僕達、しらゆきちゃんのファンで! あの、写真撮っていいですか?」
今度はその設定でいくらしい。わたしは大人しく彼に倣いつつ、双方のファンに知られたら炎上するだろうな、なんて余計なことを考える。ヨーチューンの美容界隈では加賀美派としらゆき派の二大派閥ができており、双方の過激なファンが日夜コメント欄で争っていると聞いていた。
「えー、カップルでファンなんて嬉しい! 特別にサービスしちゃうね、一緒に撮ろ!」
完全オフのしらゆきちゃんは、快く応じてくれた。だからカップルではないのですが……。
しらゆきちゃんに手招きされ、わたし達は彼女を中心に右手にわたし、左手に御門くんといった形で肩を寄せ合い、画角に収まる。しらゆきちゃんはさりげなく御門くんの肩に手を回した。それを見て、何故か華ちゃんが慌てていた。
「ちょ、ちょっと憂ちゃん! あの女明らかに色目使ってるよ! うかうかしてたら御門くん取られちゃう!」
「取られるなんて大袈裟な。これもファンサービスじゃない?」
「でもカップルって設定なら、彼氏取られるのはマズいでしょ」
なるほど、そういうものなのか。華ちゃんに諭されたわたしは、恐る恐る左手を伸ばし、御門くんの背中に手を添えてみた。
「はい、ポーズ! 上手く撮れたね〜。ねね、よかったらLYNE交換しない? さっきの写真送ってほしいな」
「いいですよ」
LYNEはSNSアプリの一つで、メッセージにリアルタイムで既読通知がつくなど、素早いやり取りができる利便性から十代から二十代を中心にコミュニケーションツールの定番となっている。面白いスタンプや写真も添付できるため、メールよりも手軽な連絡ツールとして多くの人に活用されている。
「くっ、なんてあざといのしらゆきちゃん……今度はさりげなく連絡先まで交換するなんて!」
悔しそうに歯噛みする華ちゃんは、いったい誰と張り合っているんだろう……?
「実はね、しらゆきちゃんって私の中学の先輩なんだ。直接話したことはないけど昔からかなり目立ってて、その時からあまりいい噂聞かなかったんだよね。男に媚びてるって後輩女子からもすごく嫌われてたの。インフルエンサーになって有名になっても変わってないみたい」
首を傾げていると、こっそりと教えてくれた。どうやらしらゆきちゃんと華ちゃんには浅からぬ因縁があるようだ。同世代かつ同窓の徒ということでライバル心に火がついたのだろう。
御門くんにウィンクを飛ばすしらゆきちゃんに見送られ、わたし達はアパレルショップも後にした。
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