デート大作戦
わたしは緊張していた。御門くんと学校以外で会うのは二度目だ。いや、前回は放課後だから、休日に会うのはこれが初めてになる。
「御門くん、遅いな……」
待ち合わせ場所に彼の姿は一向に見えない。手持ち無沙汰もなんなので、ショーウィンドウに映る自分の姿を眺める。小花柄が散りばめられたワンピースの上からカーディガンを羽織り、シンプルかつ落ち着いたスタイルになった、と思う。
でも、どうして御門くんと? そもそも、あの霧雨篠と名乗る女性と、どういう関係なのだろう? やけに親しげな口振りだったけれど、彼が陰陽師であることも彼女は知っているのだろうか? いや、それよりも彼女は――
「気になるなら聞いてみたら?」
ぐるぐる自問するわたしを見兼ねた華ちゃんが囁く。聞いてもいいものなのか、わたしはまた悩んでしまう。秘密を共有する仲ではあるけれど、御門くんについて知らないことがまだまだ沢山あった。悶々と考え込んでいるうちに、御門くんが待ち合わせ場所に遅れてやってきた。
「悪い、寝坊した」
堂々と遅刻してきた御門くんは、相変わらずのボサボサヘアにオーバーサイズの黒のフードつきパーカー、ジーンズにゴツめのスニーカーというラフなスタイルだった。気合いを入れすぎていないか気にしていた自分が恥ずかしくなる。
「予め言っておくけど」と御門くんは釘を刺してきた。「俺と行動してる間は、なるべく目立たないように目立ってくれ。木下さんはおと……いや、デート相手って設定だから」
今、囮って言いかけなかった? ということは、霧雨篠と御門くんはわたしの体質を利用するつもりなんだろう。なるほど、急な誘いの目的はそれか。でも、わたしを囮に、何を釣るつもりなのだろう?
「寄りたい場所は二箇所ある。まずはこっち」
御門くんに先導され辿り着いたのは、街中の書店の中に拵えられた、有名美魔女インフルエンサーの美容本発売記念サイン会。美魔女インフルエンサーこと加賀美瑛里ならばわたしも知っている。動画配信ばかりでなく、最近はテレビにもよく顔を出しているからだ。
会場には長い列が出来上がっていた。皆加賀美の本を大事そうに抱えている。わたし達のような十代から加賀美と同年代の五十代まで、年齢層は様々だ。
わたし達の番になると、御門くんはいつもの陰鬱さはどこへやら、胡散臭い笑顔を浮かべて加賀美瑛里に近づいた。
「僕達、貴女の大ファンなんです!」
「あら、若いカップルさんにも好評だなんて嬉しいわ」
加賀美瑛里が上品に微笑む。わたしは慌てた。
「か、カップルでは……」
「若いっていいわねぇ……」
うっとりと呟いた加賀美瑛里の視線は、わたし達二人ではなく、明確にわたし一人を捉えていた。背筋に鋭利な刃物を突きつけられた気分がして、わたしは慌てて目を逸らした。そんなわたしを横目に、御門くんは言う。
「すみません、彼女、シャイなもので」
「あらあら。大丈夫よ、取って食べたりしないから。はい、どうぞ」
サインを書き込んだ本を手渡してきた加賀美は、わたしの手をギュッと握ってきた。和ませようとしたのだろうが、冗談に聞こえなくて、わたしは渇いた笑みを浮かべた。
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