◇


 放課後、私と木下さんは御門くんに指定された通り警察へと向かった。

 陰法師と呼ばれる残留思念になった私は一般人には視認されないため、警察の事情聴取の間は木下さんの肉体に間借りすることとなった。憑依している間は同居している魂同士で会話でき、表層意識も自由に切り替えられると教えてくれた。つまり、傍から見ても、何もない場所に延々喋りかけるイタい人にならなくて済む。私のせいで変な目で見られたらどうしようと危惧していたため、ホッと胸を撫で下ろした。

 道中、木下さんは自身の秘密を打ち明けてくれた。代々陰法師を引き寄せやすい家系であり、木下さんは殊更引き寄せる力が強いこと――

「今更だけど、私が憑いちゃってて大丈夫? 迷惑じゃないかな……」

 幼い頃から散々狙われてきたと聞いて、私はドキリとした。もし、私が記憶を無くしたフリをした悪い幽霊だったら、木下さんは自ら危険に身を晒していることになる。そうでなくても、他人の魂まで受け容れるのは大変だろうに。

 しかし木下さんは慣れているのか、全く気にする素振りを見せなかった。

「大丈夫だよ。困ってる時はお互い様、でしょ?」

 にっこりと微笑む木下さんの背後には、後光が差して見えた。なんて徳の高い……! とても同い年とは思えない。

 すっかり打ち解けた私達はお互いに「ユウちゃん」「華ちゃん」と下の名前で呼び合う仲になった。

「ところで……御門くんのことはどう思ってる? もしかして好きだったり?」

「まさか!」気になっていたことを聞いてみると、彼女はからりと笑って否定した。「仲間だとは思ってるよ。でも、それだけ。変な意味とかないから、ホントに」

 それにしてはやけに親密だったような……いや、下衆な勘繰りは止めることにしよう。死んでまで他人の恋路に首を突っ込むのは野暮というものだ。

 そうこうしている内に、目的地に辿り着いた。聳え立つ桜田門の摩天楼を見上げる。

「わたし、警察なんて初めて」

「私も」

 加害者ではなく被害者であるにも関わらず、緊張で身体を強張らせながら自動ドアを潜る。

「すみません、特殊怪奇捜査班の方に用があるのですが」

 受付のお姉さんは珍妙な生物を見たような視線でジロジロと憂ちゃんを眺めてから「少々お待ちください」と言ってその場を離れた。何か変なことを言っただろうか……?

 少し待たされて、高らかなヒールの音と共に、奥から美女が現れた。白い面は白磁の如く滑らかで、すらりとした手足はモデルのよう。肩で切り揃えた稲穂色の髪がさらりと揺れる。

「ようこそ。私が特殊怪奇捜査班の霧雨篠です。ご協力、感謝いたします」

 美しく微笑む霧雨篠の笑顔は現実離れして、どこか胡散臭く見えた。

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