「ご高説は結構だけどさ、じゃあ今のアンタにそれを知る手段は? 力はあるのかよ。何も持たない奴が出しゃばるな、邪魔だ」

 ミカドクンの正論にぐうの音も出ず黙り込んだ、その時だった。

「御門くん?」

 階段を登ってきたのは、ミカドクンのクラスの委員長、木下コノシタさんだ。

「木下さんか、何」

「何じゃないよ、また朝のホームルームサボったでしょ。一限目はちゃんと出席してね、このままじゃ留年……あれ?」

 木下さんの視線が私を捉えた。彼女はぱちくりと瞬きを繰り返す。もしかして、

「視えてるの!?」

「えっ、うん、まぁ……御門くん、どういうこと!?」

 木下さんに詰め寄られたミカドクンは、面倒臭そうに頭を掻き毟った。あ、説明する気ないな、と察した私は自分が死んだらしいこと、その記憶がないことを簡潔に伝えた。

「そんな……」木下さんは大きな瞳を更に見開き、口元を手で覆った。「ご愁傷様です……うーん、違うな。ごめんね、こういう時何て言えばいいのかわからなくて……」

「あ、いいよいいよ気を遣わなくて! ぶっちゃけ私もあんまり実感湧いてないんだ、あんまり覚えてないし」

「酷い目に遭って辛かったよね。わたしにできることなら、何でも言って」

 木下さんはそう言ってくれた。何て良い子なんだろう……! 私は感激した。ミカドクンとは大違いだ。

 そのミカドクンはというと、無関心を装ってスマホをいじっていたが、盛大に溜息を吐いてこちらを向いた。明らかに面倒臭がっている顔だ。

「あー、小山サン、だっけ? こういう事態に対応できる知り合いに連絡したら、そのまま連れて来いってさ。っつーワケで、放課後木下さんと一緒に警察に行ってくんない?」

 私達は顔を見合わせてから、揃って目をぱちくりと瞬かせた。

「え、わたしも?」

「さっき、できることなら何でもするっつってたじゃん。木下さんの体質なら、霊の一人くらい憑いても大丈夫だろ」

「それは大丈夫。でも、急だね。さっきまであんなに嫌そうだったじゃない」

 木下さんの体質って何だろう? そもそも、二人はやけに親しげだがどういう仲なんだろう? 野次馬根性がむくむくと膨れ上がる。他人の色恋沙汰には興味が湧くのが女子高生という生き物だ。私は既に死んでいるけれど。

「何で死んだか思い出せたら、コイツも潔く成仏するだろ。長く関わるのはゴメンだね」

 ミカドクンが非情に吐き捨てたタイミングで、一時限目の予鈴が鳴った。彼は「じゃ、そういうことで」とだけ言い残してさっさと階段を降りて行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る