女子高生連続失血死事件

 僕こと御子柴ミコシバサトルが特殊怪奇捜査班に左遷――もとい、移動になってから、早ひと月。特怪は暇を極めていた。

 あれ以来、霧雨キリサメシノが持ち込んでくる事件は全て一課が手柄を立てており、陰法師かげぼうし絡みの事件が起こっていないのだ。しかし一課に度々事件が舞い込む様子を見る限り世の中は平和とも言い難く、こんなはずでは……と鬱屈した日々を送っていた。

 今日も今日とてやることがなく、ぼうっとオフィスの片隅のテレビを眺めていると、

「おや、何を観ているんだい」

 特怪を仕切る班長(と言っても正式な人員は僕と彼女の二人だけだが)、霧雨篠が戻ってきた。

「班長、どこに行ってたんですか?」

「ちょっと捜査会議にお邪魔させてもらってね」

 謙虚な口振りだが、実際はしれっと参加したのだろう。このひと月で僕は学んだ。霧雨篠は美人だが図々しいと。直属の上司じゃなかったら、あまり関わり合いたくないタイプの人間だ。

『本日のゲストは、どちらもチャンネル登録者数100万人超え! 美魔女インフルエンサー加賀美瑛里さんと10代女子のカリスマインフルエンサー、しらゆきちゃんです!』

 テレビの中の司会が大きな声で叫んだ。霧雨篠と僕は自然、そちらに視線を向ける。ゲスト二人の名前は僕も聞いたことがある。しかし霧雨篠には耳馴染みがなかったようで、画面の中の二人に胡乱な視線を向けていた。

「誰だって?」

「世界的動画配信サイト〈ヨーチューン〉で人気の美容家らしいですよ。しらゆきちゃんは若い女子のカリスマ的存在で、加賀美瑛里はあの美貌で50代だとか。さっきも紹介されてた通りどちらもフォロワー数100万人超えの超有名インフルエンサーなんですよ。凄いですよね」

「ふぅん」

 明らかに興味がなさそうな相槌。実を言うと、僕はテレビでも飾らないしらゆきちゃんのスタンスを結構好ましく思っているのだが、この分なら黙っておくのが賢明だろう。

『私、子供の頃から白雪姫が好きだったんです』

 画面の中の加賀美は言う。すかさず司会が相槌を打つ。

『いいですね、白雪姫。王子様とのキスで目覚めるなんて、ロマンチックですよね〜』

『いえ、私が好きなのは白雪姫ではなく、彼女に呪いを掛けた魔女の方です』

『へえ! これは意外だな。どうしてまた? 彼女は悪役でしょう?』

『ええ、でも彼女の美の追求心に惹かれるものがあって。ほら、私に似てるでしょう?』

 加賀美は上品に微笑みながら自虐ネタでスタジオの笑いを誘った。ひとしきり笑った司会は、今度はしらゆきちゃんに話題を振る。

『加賀美さんが白雪姫の女王なら、しらゆきちゃんは白雪姫ですね』

『えー、私なんか全然! 瑛里さんにも白雪姫にも敵わないですよ。でも、リンゴの差し入れには気をつけないと』

 謙遜しつつ、加賀美と司会の発言の意図を汲み取るしらゆきちゃんは頭の回転が速いのだろう。またしてもスタジオの笑いを誘う。

「何だ、この茶番は? 馬鹿馬鹿しいにもほどがある」

 霧雨篠は苛々と吐き捨てた。彼女がここまで感情を露わにすることは初めてで、僕は戸惑ってしまう。

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